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2013.08.27

新たな気候変動レジームのための世界共有できる中長期ビジョンの検討

エネルギー・資源学会Vol. 34, No.3に掲載

  • 主任研究員 段 烽軍/
    研究主幹 湯原 哲夫/
    上席研究員 氏田 博士

キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員 段烽軍と研究主幹 湯原哲夫、上席研究員 氏田 博士とが「新たな気候変動レジームのための世界共有できる中長期ビジョンの検討」と題し執筆した論文が、一般社団法人エネルギー・資源学会の会誌に掲載されました。



1. はじめに

 1992年6月の地球サミットにおいて気候変動枠組条約が採択されて以降,温暖化抑制に係わる国際的な議論が進められてきている.1997年の第三回締約国会議(COP3)においては京都議定書が採択され,初めて法的拘束力のある数値目標が設定された.その後,第一約束期間が終了する2012年に向けて,新たな気候レジームの検討が行われてきた.しかし,2009年のCOP15で予定していた国際合意が達成できず,それ以降気候変動に関する国際交渉は混迷状態に陥っている.2010年のカンクン合意と2011年のダーバン合意が得られ,排出量測定・報告・検証(MRV),適応,資金等の個別分野で一定の進展がみられたが,新たな気候レジームの確立には至っていない.その原因の一つは,共通目標の不在である.産業革命前のレベルからの温度上昇を2℃以内に抑えるべきであるという数値目標はある程度共有されてはいるが,それを実現するための温室効果ガス排出経路について共通認識が得られていない.G8サミットでは,IPCC第四次評価報告書を根拠に,2050年には1990年あるいは近年レベルに比し温室効果ガス排出を50%削減との目標を提唱したが,実現可能性が低いと同時に,科学的な検証が不十分と指摘されている.

 一方,最近の気候変動科学の分野では,IPCCの従来型安定化シナリオと異なるアプローチの研究が多く行われ1)-3),長期的な気温上昇を支配するのは主に累積排出量であり,排出経路依存性はあまり高くないということが指摘された.すなわち,当面の排出量が大きくても,将来における低排出が実現できれば,長期的な気温上昇を既存の低排出シナリオと同等以下にできる可能性があるということになる. Matsunoら4)は,このいわゆるオーバーシュートシナリオを発展させ,近い将来に排出総量が地球吸収能力以下に低減できれば,大気中の温室効果ガス濃度も気温も長期的に緩やかに減少すると指摘し,22世紀の半ばにゼロエミッションの実現を前提として21世紀における累積CO2排出総量制約を650GtCにするZ650シナリオを提案した.このシナリオの将来気候変動を簡易気象モデルにより検証した結果,21世紀初期における多くの排出により,大気中のCO2濃度は一度530ppm程度に上がるが,その後の大幅排出削減によって徐々に低下していて,長期的に380ppm程度に安定することが示された.対応する気温上昇については,短期的には産業革命前のレベルから2.3℃に達するが,その後徐々に低下していき,1.8℃前後に安定する.このような温度上昇から引き起こされるグリーンランド氷床融解や海面上昇などの長期的気候変動影響の面から比較すると,従来のIPCC450ppmシナリオと同程度とすることが可能となる.すなわち,Z650シナリオは,長期的な気候変動被害が小さく見積もられ,近未来においてはCO2排出制限が緩やかに設定できることから,国際的な合意に達する可能性も高い.本稿では,このシナリオをベースに,エネルギーシステムの解析により世界共有できる中長期ビジョンを構築する.第2章では,本研究で用いるエネルギーモデルの構成と諸条件を説明し,分析するシナリオの設定を明らかにする.第3章では,シナリオ分析から得られたエネルギービジョンについて,実現可能性,国際衡平性,経済性の評価を行う.第4章では,提案するビジョンを共有するための現実な実現ルートを検討する.最後の第5章では,本稿のまとめと今後の課題を議論する.

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新たな気候変動レジームのための世界共有できる中長期ビジョンの検討PDF:595.5 KB

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