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2016.11.01

ワイオミング紀行 ― 自然とミサイルと

  • 岡本行夫
  • アドバイザー
    岡本行夫

 ワイオミング州のイエローストーンと、隣接するグランドティトンの二つの国立公園を5日間旅行した。自然に圧倒された。

 日本の国土はアメリカの僅か4%。そこに多勢が暮らす日本人とアメリカ人の間には、風土からくる大きな差がある。日本は豊かな自然にはぐくまれ、四季の変化とたおやかな風土の山紫水明の国、と思われている。確かに国全体を国立公園にしてもいい美しい自然だ。しかし、この「日本国立公園」では火山が噴火し、地下の巨大プレートが地震を起こし、大津波も発生する。夏と秋は台風の直撃。山は海岸線まで迫り、大雨になれば水は一気呵成に川を氾濫させる。

 日本列島の自然は、人が住むには過酷だ。我々はその荒ぶる自然と一体化して共存しようと努力してきた。景観と治水のために山に頻繁に手を入れ、植林し、自然を保護してきた。

 アメリカ人は荒っぽい。自然には手をつけない。1988年のイエローストーンの山火事は6か月間続き、森と山は燃えるに任された。焼失した森林面積は公園全体の36%。奔放に荒れ狂った炎は国立公園全体を破壊する勢いだったが、それでも当局は動かなかった。東京都全体の1.5倍の面積の山林が燃えているのに手を出さない。日本であれば、「なんとかしろ!」と、非難轟々だろう。

 放置した結果どうなったか。火が消えたあとには、若い木々が育ち始めた。樹木の大半を占める松には、特別の松ぼっくりがついていて、普段はヤニに覆われて閉じているが、山火事の高温の時にはカサが開き、地に落ちて新たな芽を出すそうだ。20年以上かかったが、今は、以前より強くて若い森林が公園を覆う。多くの動物が焼死したが、これも世代交代が進んで完全に復活したという。逞しい自然管理と言うほかない。

 帰途の機上から、砂漠と荒れ地の中にいくつもの大きな緑の円を見た。「セントラルピボット方式」で作られた農地だ。棒状のスプリンクラーを360度回転させて、大きな円形の農地を作る。あれだけ広大な国土で、なお砂漠まで緑地化しようとする。あきれるほどの逞しさだ。

 同じ円形緑地が、大陸間弾道ミサイルのサイロである場合もある。上空から目をこらして円形緑地に農作業用の建物が見えれば農地。脇に地下の発射指令室への入り口があれば、サイロだ。ワイオミング州のウォーレン空軍基地が管轄する100基のミサイルのサイロ群は、日本の四国の広さに匹敵する面積に散開する。「日本も核武装せよ」と主張する人々は、サイロをどこに置けると考えているのだろうか。

 地下の発射指令室には、2人の兵士が24時間勤務する。その空間に張りつめる恐ろしいほどの緊張感。ワイオミングの美しい自然の中で、若い兵士たちは、自分の勤務する24時間に核戦争が起こらなければ次のチームが、さらに次のチームがあとを継いで、「平和」を1日ずつ延ばしていくと、そう考えてミサイル発射ボタンの前に座る。これが抑止の最前線である。

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