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2016.01.14

これから日本をどういう国にするか

  • 福井 俊彦
  • 理事長
    福井 俊彦

 昨秋、安全保障法制が国会を通過したあと、日本のメディアは一斉に「これから改めて経済の問題に焦点が移る」と書き立てた。社会の雰囲気もそういう流れで年を越した。
私は、強い違和感を覚えている。政局としては確かにそうであろう。しかし、今の厳しい世界情勢の中で日本の将来に思いを馳せると、経済と外交安全保障の両面で国民全体が常に次のステップを真剣に考え、討議を続け、健全な輿論形成に努めなければならない。

 世界経済は、リーマンショック後7年余を経た今も、G20が繰り返し標榜している "strong, sustainable and balanced growth" の軌道に到達していない。先進国経済を見ると、順調な回復を続けている米国を含め、総じて生産性の伸びが満足出来るレベルに及んでいない。新興国経済は、中国を筆頭に成長減速の趨勢にある。資源価格の下落は本来成長促進要因であるが、今のところ産出国へのダメージの方が目立っている。

 日本経済は、アベノミックスで一息入れたものの、真に持続的な成長へ繋げて行くため、これからは国民の一人一人が相当の苦心と負担を覚悟の上、次の二つの課題にもっと真剣に取り組んで行かなければならない。一つは、民間企業において、政府の施策に過度に依存することなく、自らリスクを取って新しいイノヴェーションに挑戦し、世界に範たる事業活動を起こすこと、もう一つは、信頼度の高い財政再建計画を早急に確立すること。

 次に、安全保障面から世界情勢を見ると、民族主義が再燃し、計画的・組織的なテロ、難民の洪水、サイバー・アタックなど、秩序の綻びが一層目立つようになっている。その背景に、米国のコミットメント後退、中国の台頭(「核心的利益」の追求)、ロシアの反転攻勢(失地回復を狙う)があり、新たな世界秩序形成の軸を見出し難い状況が続いている。

 日本は戦後70年間、パックス・アメリカーナを背景に、経済に的を絞って国の再興を進めて来た。安全保障について主体的な責任意識を強く持たなくとも「安定の離れ小島」を築くことに成功した。しかし今や、わが国だけが嵐から隔離されて平穏に過ごす訳には行かない。日本はどういう「責任」を負担しながら世界秩序の形成に寄与して行くべきか、先般の安全保障法制の整備により一山越えたものの、今後更に多くの難問に直面して行くこととなろう。国民の一人一人が、自らを当事者として認識し、情勢を先取りしながら臨場感を持って考え続けることが大切である。

 かつて京都大学の高坂正堯先生は、「戦後の日本は経済の価値体系を先頭に押し立て、文化や安全保障の価値体系を少し後ろに置いて、国の運営に当たって来た」と述べられた。これからの日本にとって最も重要なことは、これら三つの価値体系を並立させながら、国際社会において多くの場面で先端を切り拓く力を示し、果たすべき責任を果たす、そうした姿を目指して新しい国造りに勤しむことである。
 
 今年は申年。国民一人一人の自覚が確立しなければ、サルが木から落ちてしまう。