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2015.01.23

Pax Americanaの揺らぎ

  • 福井 俊彦
  • 理事長
    福井 俊彦

 今年は、ナポレオンがワーテルローの戦いに敗れて後200年目に相当する。
 産業革命、ナポレオン没落、アヘン戦争という流れの中でPax Britannicaが形成された。
 第一次世界大戦から第二次世界大戦に向かう間にPax BritannicaからPax Americanaへの移行が進み、第二次世界大戦後Pax Americanaが確立した。
 そして今、基軸通貨の提供と安全保障の中枢の役割を果たして来た米国の力が相対的に弱まる傾向にある(Pax Americana is likely to be over ?)。


 世界の潮流のもう一つの大きな変化は、申すまでもなく経済のグローバル化と情報通信革命の急速な進展である。はじめのうちは、市場が世界の隅々まで広がるとか、情報が速く得られるとか、好ましい側面に人々の期待が集中したが、現実の経過は厳しく、競争が激化して経済主体の栄枯盛衰が際立つようになっている。所得格差が拡大して人々の不満が累積し、社会が不安定化している。政治の面でポピュリズムの風潮が強まり、真のリーダーシップを確立することが難しくなっている。要するに、国境や地域の壁を乗り越えて、ヒト、モノ、カネ、情報が自由に行き交う社会は、そう生易しいものではないと、人々が実感するに到っている。
 これらが複雑に絡み合って、世界秩序の元締め(lynchpin)に緩みが生じ、この隙間から様々な混乱が漏れ始めている。


 Pax Americana の最大の受益者は戦後の日本であった。文化や安全保障の問題をさて置き、経済の復興を最優先課題として国家の再建を図って来た。
 このため、国際政治や安全保障の問題に対しては「対応」が基本姿勢であり、「先手を取る」とか「布石を打つ」といった戦略的発想を十分練る機会は少なかった。
 しかし今や、米国のcommitment後退、中国の台頭(「核心的利益の追求」)、各地におけるナショナリズム・民族主義の再燃、cyber attack(諜報活動、情報漏洩、破壊行為)、terrorismの拡散(homegrownから世界各地へ)など事態は目まぐるしい変化を遂げつつあり、その中でわが国にとっては、外交・安全保障を巡る基本的な政策体系の確立、近隣諸国との間における建設的対話、その他世界各国に対する戦略的な外交の展開を何時までも先送りする訳には行かなくなって来ている。これからは、国民の一人一人が国の行く末をしっかりと見定め、経済のみならず外交・安全保障の問題に対しても主体的なものの考え方を追究するとともに、討議を尽くして政府の行動を促す姿勢を身に着けることが大切である。


 とりわけ、近隣の中国や韓国との間では、いわゆる歴史問題についても引き続き胸襟を開いて話し合うと共に、出来ればこの話し合いのレベルを「日・中・韓が世界に向けて担うべき責任」というところまで引き上げて行くことが望ましい。