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2013.10.07

厳しい生存競争に挑む

外交Vol.21に掲載

  • 福井 俊彦
  • 理事長
    福井 俊彦

 経済のグローバル化と情報通信革命を軸に世界の潮流は怒濤の如く変化している。初めのうちは、市場が世界の隅々まで広がるとか、情報が速く得られるとか、好ましい側面に人々の期待が集中したが、現実の経過は厳しく、競争が激化して経済主体の栄枯盛衰が際立つようになっている。所得格差が拡大して人々の不満が累積し、社会が不安定化している。政治の面でポピュリズムの風潮が強まり、真のリーダーシップを確立することが難しくなっている。国境や地域の壁を乗り越えて、ヒト、モノ、カネ、情報が自由に行き交う社会は、そう生易しいものではないと、人々が実感するに至っている。

 もともと地球上の人々は価値観の相克と経済戦線における角逐に苛まれていたが、それでも、国境や地域の壁の中に比較的同質の者が集まり、「安定の離れ小島」を築く努力をしていた。その最も典型的な成功例が戦後のわが国であったと言えよう。経済の価値体系を最優先し、文化や安全保障の価値体系を後順位に置きながら、「政・官・財の鉄の三角形」と呼ばれる堅固な陣形を組んで高度成長、所得の平等化、社会と政治の安定を実現してきた。

 今や、わが国も例外ではいられない。世界の潮流変化に即して素早く陣形を再編しつつ、勝利の方程式を見出さなければならない。それが容易に進まず、苦吟を続けて来たのがいわゆる「失われた20年」の実態である。人口動態の変化、即ち少子高齢化の急速な進展が負荷をさらに重くしている。

 アベノミックスの下で、展望を切り拓く新たな努力が始まっているが、大事な点は、第一に、人々の意識が、グローバルな生存競争を強く意識した攻めの方向に転じること。特に民間企業において、グローバルな市場を広く捉え、ビジネスネットワークを柔軟に組み替えること。内外の知的人材を集め、切磋琢磨の中から知識創造をベースとしたイノベーションの力を伸ばすこと。わが国民は、もともと異文化を吸収しつつ独自の文化を磨く能力に長けている。今後はこうした形で経済の価値体系と文化の価値体系の肩を揃えることが大切である。

 第二に、女性の社会進出と、子育てを容易にする条件を整えること。人口動態の変化の中でわが国として総力戦の体制を整えなければならない。

 第三に、農業、林業、漁業を若者が担うことを可能とし、地域コミュニティーを再興すること。これは、再生可能エネルギーの開発事業にも繋がる面を持っている。

 第四に、撃たれても揺るがない頑健な経済基盤を築くため、信頼の置ける中期財政再建計画を早期に樹立するとともに、不可分の一体として社会保障制度を抜本的に改革すること。この作業を通じ、受益と負担の公平性をめぐる真剣な議論を人々の間で呼び起こすこと。

 第五に、将来の時間軸に沿って環境政策と整合性の取れたベストエネルギーミックスを想定した上、新しいエネルギー基本計画を確立すること。

 最後に、わが国の将来には一つの大きな「夢」があることをお話ししたい。それは海洋開発である。わが国の陸上面積は狭いが、国連海洋法条約によって認められた排他的経済水域を含めると、一挙に世界第6位の大国となる。この先は、海洋国家としての強みを発揮すべく、海底資源の開発や海洋エネルギーの活用に向けて民間の技術開発が大幅に進むことを期待したい。

 当然この場合、わが国の海洋開発事業を標的として外から攻め込む動きが出てくることは想定しておかなければならない。相応の自衛力を備えるとともに、妨害の動きに対してはそれを「不当だ」と言ってくれる海外の仲間を増やすため、戦略的な外交展開が普段から必要となる。

 冒頭に述べた通り、戦後わが国においては、文化や安全保障の問題をさて置き、経済の復興を最優先課題として国家の再建を図ってきた。このため、国際問題に対しては「対応」が基本姿勢であり、「先手を取る」とか「布石を打つ」といった戦略的発想を十分練る機会は少なかった。

 わが国が、海洋開発に本格的に取り組むようになれば、このような構えを一新し、経済の価値体系、文化の価値体系と並んで安全保障の価値体系を同列に取り戻す重要な切っ掛けを得ることとなろう。