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2009.04.27

温暖化ガス削減の六つの選択肢

  • 福井 俊彦
  • 理事長
    福井 俊彦

私が座長を仰せつかった「地球温暖化ガス削減中期目標検討委員会」は、このほど削減率の異なる(1990年比で+4%〜△25%、2005年比で△4%〜△30%)の六つの選択肢を提案いたしました。(中期目標の6つの選択肢について(104KB)

この選択肢は、これから政府が国の政策として中期目標を正式に決定して行かれるにあ たり、土台として使っていただくものですので、その用途に適するよう(1)戦略的要素は一切加味せず、専ら科学的客観的なアプローチにより結論が得られる よう分析、討議を進めました。また、(2)森林吸収や京都メカニズムを通ずる国際取引による削減は一応検討の対象外とし、純粋に国内努力による削減に的を 絞っています。

さらに重要な特徴を申し上げるならば、多くの方々にこの問題を考えていただく重要な手 掛かり<縦糸>をお届けするため、それぞれの選択肢について、目標達成に必要な技術メニュー(どのような技術進歩を想定し、企業や家計の段階でどの程度実 際にこれが用いられる必要があるか)と政策メニュー(誘導策、財政的支援、規制強化、義務付け、原子力発電所稼働率引き上げサポート、炭素税等炭素の価格 付けなど)を明記しています。また、先進国間の公平性を考えていただく拠り所<横糸>として、限界削減費用を等しくする場合、GDP対比の削減費用を等し くする場合、の二つの典型的なケースを相互に比較しやすい形で掲げています。

温暖化対応の究極目標は、IPCCの知見が示す通り、地球全体の温度を産業革命前の水 準に比べ(例えば2°Cを越えて)あまり高くならないよう抑制することですが、その過程で、温暖化ガス削減の長期目標として、2050年には排出量を現状 比半減させることが先進国間でコンセンサスとなっています。わが国も、先の洞爺湖サミットの折に、独自の長期目標として現状比60〜80%削減する方針を 明らかにしています。

これから政府において策定される我が国の中期目標は、こうした長期目標と整合的なもの でなければなりません。中期目標検討委員会でも、今回提案した六つの選択肢について、この点を検証し、いずれの選択肢も長期目標と整合的であることを確認 いたしました。ただし、いずれの場合も、今後着実に技術進歩の成果が挙がることを前提としています。そして、成果を挙げるために要するコスト(GDP当た りの対策費用)についてみると、比較的厳しい削減目標の場合は当初の段階でコストが高く、先に行くにつれ逓減するのに対し、比較的穏やかな削減目標の場合 は当初の段階ではコストは低いものの、先に行くにつれ逓増する計算となります。では、着実な技術進歩を担保するために実際どのような目標を設定することが 望ましいか。なかなか難しいところですが、あまり非現実的にならない限り、やや厳し目の目標を設定して早い段階からイノヴェーションに弾みをつける方が後 々の経路がスムースになるのではないか、とも考えられましょう。

最後に、温暖化対応が経済全体に及ぼす影響についても点検しました。その結果、温暖化 対応は省エネ投資等を促進するプラスの効果がある反面、コスト増に伴うマイナスの影響もあり、総合すると、いずれの選択肢の場合も経済に対しては下押し効 果の方が若干上回ることが判明しました。ここで重要な点は、だからといって温暖化対応を怠ると、先々経済発展の持続性が損なわれ、将来より大きなコストを はらう結末を招くということです。経済に多少負荷はかかるとしても、それによって経済発展の持続性を確保し、先々経済のダイナミックスの中で、コストをい つしか投資に転化させる、そこにこそ温暖化対応の真髄が潜んでいます。

いずれにせよ、これからの温暖化対応には、先進国のみならずエマージング諸国も足並み を揃えて取り組むことが肝要です。政府において策定される我が国の中期目標が、世界各国から十分理解されるものとなること、そして、ポスト京都議定書の新 しい枠組みにエマージング諸国の多くが参画する共鳴効果を持つものとなることを、誰しも願うところです。

私は、世界に対してリーダーシップを発揮しうる中期目標の要件としては、第一に、科学的根拠を しっかり踏まえたものであること、第二に、出来るだけ多くの皆様の理解を得て民意を前向きのものとし、その支えを背景とするものであること、この二つが欠 かせないと考えております。

温暖化ガス削減の六つの選択肢PDF:103.4 KB