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2017.02.01

トランプ新政権をうらなう

  • 林良造
  • 理事・特別顧問
    林良造

 新年を迎え、トランプ新政権への懸念が増大している。本格始動に入る半年後の政権について、主張・個性に加えて、米国の制度、選挙に表れた米国社会、トランプ氏の職業経歴から考えてみる。

 まず、米国憲法に書き込まれた徹底した"Check & Balance"の仕組みの結果大統領権限に何重もの歯止めがかけられている。この結果、経済政策・社会政策では大統領の個性の発揮には限界があり、行政府・立法府を巻き込むスキルが極めて重要となる。トランプ氏は必ずしも国民の圧倒的支持を受けているわけではなく、多数与党下でも党議拘束は弱く独立傾向の強い議員を動かすのは容易ではない。この点は、知事経験者は強いが、成功した経営者がワシントンに来たときの弱みと言われている。政権チームは混沌から始まろうが、その先に一体となって大統領を支えるチームが作れるかが大きい。ただ、現在の経済回復は追い風であり、また、小さな政府を目指し経済規制に反対する姿勢は経済界の活力を引き出すのに成功していることから、一定の成果が期待できよう。

 次に外交・軍事は、行政府・大統領のいわば専権事項であり、主張と個性が表れる分野である。米国の役割の再定義と経済力に見合った負担との主張は、1970年以来繰り返し現れ、時の経済状況を反映しつつ国民的支持も拡大している。その意味で、バードンシェアリングと首脳外交が大きな流れとなると思われる。また、予測困難な行動特性は一面抑止力でもあり、その強烈な個性と交渉力は大きな武器となろう。もちろん、成功のための最大の関門である戦略的思考の枠組み作りは容易ではなくリスクも否定できないが、経験と予断が少ない分野でもあり今後の急速な成熟も期待できよう。

 国際経済政策は最も難問である。特に通商分野、為替分野は、独立機関、行政府、議会の権限が交錯する。その中で貿易制限手段については、WTOによる制度的限界はあるものの行政府は相当の自由度をもっており、大統領の個人的信条も働きやすい。トランプ氏は、企業経営者の視点で貿易・投資の自由化が米国の経済利益を奪ってきたという強い思い込みをもっており、大衆の支持と連動すれば一挙に保護主義の連鎖につながりかねない。この点は、貿易・投資の自由化こそ成長を加速してきた原動力であるにもかかわらず、成長果実の恩恵は見えにくく個別利害の犠牲は見えやすいことから修正は容易ではない。今後、自分の直観を抑えて、国民経済の仕組みを理解し、拡大均衡志向に切り替える器があるか大きな試練となろう。

 最も影響を受けるのが米中関係である。まず、新体制は経済外交で中国に激しく衝突しよう。思い起こすと、日米の半導体協定とそれに伴う制裁をめぐって一時世界経済に大きな混乱をもたらした。当時日本は西側同盟国であっても、ナショナリズムは燃え上がった。現在中国は経済成長の岐路に当たり、共産党支配の正当性も問われるなかで、新たな大国として米国と対峙しようとしている。中国の外交能力、習近平の個性と掌握力、米国新政権の性格いずれをとっても安全保障面での衝突ぶつかり、ブロック経済化など一挙に緊張する可能性を示している。この意味で、新大統領には敵を知り己を知ってた上での横綱相撲が求められるのだが。