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2016.08.04

ドイツIndustry4.0考

  • 林良造
  • 理事・特別顧問
    林良造

 英国のEU離脱の陰で少し色あせてきたが、ビッグデータ、IoT、AI、Industry 4.0などを巡ってお祭り騒ぎが続いている。この分野は2020年までに100兆円のGDPの上乗せを目指すアベノミクス第2弾でも最大の貢献を期待されている。

 その背景には、ICTの能力の拡大が経済・産業のパラダイムの変換をもたらすまでに達しているのではないかという予想がある。ICTの爆発的なパラダイム変換力自身は珍しいことではない。伸び続ける半導体の処理能力と計算スピードは、今までもソフトウェアの力、ネットワークの力を引き出し、それらと共振することによって革命的変化をひき起こしてきた。

 今回はその情報システムがモノに直結し、膨大な情報を処理する能力は人を凌駕するような法則性の発見・判断能力までをも示し、情報システムが人を介することなく自己判断により瞬時にモノ・サービスを現実の社会に提供する可能性を秘めているところが大きな特色となっている。



 このような動きをリードしているのは、ICTを最大限に生かしてネットワーク、サービス産業の最先端を走り続ける米国と、ユーロ圏の中で製造業の強みを生かし続けたドイツであり、ドイツの中心の一つがBoschである。

 ドイツの自動車産業の開発・生産では、いわゆるメーカのみではなくBoschという巨大部品メーカの存在が大きい。Boschは単なる部品メーカではなく、エレクトロニクス、動力機械に強力な技術ベースを持ち、下位部品メーカを巻き込みつつ、多くのドイツ自動車の中核部分の開発生産プラットフォームを提供している。今回Boschは、自社の膨大な自動車製造プロセスをこれらの新ICT技術を使って根本的に変革し、それ自身を製品として世に問おうとしている。



 Boschのアプローチにはいくつかの特徴がある。その大きな強みは、産業の構造上Boschのシステムは系列横断的であることである。他方系列を超えるため、参加メーカの独自の競争力の源泉の秘密を保護する必要に迫られる。そこでは標準の設定が鍵になるが、参加各社が独自性を保持しながら、内容的にトヨタが達成している一体性を提示できるかが第一のポイントとなっている。第二は次期自動車のコンセプトづくりから利便性・快適性の提供までをシステム化する狙いから、Googleなどの米国のIT企業の速さと適応能力を強烈に意識している点である。第三は従業員の受容性への気遣いである。ドイツの労使関係はフランスの労働契約法の過保護さに比べると厳しい一方、共同決定法という独特の会社法に象徴されるように、労働者に対して大変気を遣ったものとなっている。さらにBoschは、その設立以来、現場労働者を解雇しないことを掲げて成長してきた。したがって、今回の製造プロセスの改革にあたっても、関心の半分は新たなプロセスの労働環境にあたえる影響の評価、ワークプレースでの設計におかれている。それは、ロボットとICTが第一次的対応をすることを前提に、その監督としての人間の役割を丁寧に定義することから、従業員の健康管理、労働安全、さらには社会全体の教育制度の改革にも及ぶ。



 このBoschのチャレンジは、日本の製造業のプラットフォーム改革にとっても、基本的視座を与えるものと思われる。