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2016.02.04

シンガポール雑感

  • 林良造
  • 理事・特別顧問
    林良造

 昨年来シンガポールで過ごす時間が急増している。ASEANという集合体についてはここ数年シンポジウムや国際会議の議長役などで接する機会が増えてきていたが、その中の一つの国を間近にゆっくりと観察したのは初めてである。

 そのASEANでは、何とかAECが発足にこぎつけた。シンガポールからミャンマーまで、経済・政体、宗教・文化あらゆる意味で多様な10か国は、日本からの産業の移転、中国経済の爆発的成長に恵まれてここまで順調に拡大・成長してきた。その追い風が止まったところで、中所得国の罠、Takeoffなどまったく異なる経済政策課題に直面し、安全保障上の立ち位置も多様な中で、統合への求心力を持ち続けるのは容易ではない。時間をかけた緩やかな結合はアジア型の現実的解決であるが、激しい政治経済的変化によりリスクが拡散する時期に、ともすれば求心力をさらに弱めることともなる。いま、中国・インドの間に埋没するか、存在感を拡大できるかの岐路に立っているといえよう。

 さて、個別のメンバー国をみると、インドネシア、タイ、マレーシア、ミャンマーなどすべての諸国が多種多様な難問を抱えている。シンガポールは、その中にあって最も順調に見える。小さな都市国家は、建国50年を迎え、先進国型都市国家として世界トップクラスの高所得を達成した。

 短期間に工業開発から始まり、金融・物流を世界の中心におしあげた発展の歴史を見ると、大変高い公務員給与と汚職のない政府、思い切った人材と企業の誘致、人材・労働力の流動性、極めて高い教育水準、女性の働きやすさなど市場の力を最大限に活用する制度の整備やビジネス環境整備など思い切った経済政策がその大きな要因であることは間違いない。

 また、都市づくりという点でも国土の計画的開発により多民族がテーマパークのように行儀よく並べられた安全な国を作り上げ、交通インフラも自動車の数を制御し公共交通機関やタクシーなどでコンパクトに整理し、シンガポール型の特区やまちづくりを輸出までしているのは見事である。さらに創造的な国になることを目指して、科学技術立国、そのための教育環境、起業環境、人種の多様性、世界から人が集まるような制度設計など、政策の実験場のごとくである。このような国づくりと運営は、不安定性とリスクに悩む多くの先進国やASEAN諸国と比べると、突出した成功例に見える。

 それでも子細にみると、経済的自由や豊かさの間で、目立たないなりに次第に拡大する格差や政治的不自由に対する不満、あまりの詰込みと早期の進路決定に異論が出始めている教育政策、行儀が良すぎて真に創造的で凄みのある人材の層は薄いとの評価など、ほころびも拡大している。たとえばバイオポリスは、人口規模の制約などから医薬部門では出口は見えず、教育された人材の活躍場所が必要となる事態となっているとも言われている。

 ASEANの中でとびぬけた先進性をもつものの、総合的国力という意味ではリーダーにはなりきれず、素直に尊敬される存在でもない。リカンユーという建国の超人の去った後、建国50年、ASEANの中での存在感を追求し、経済的繁栄と国家としての求心力を持ちつづける方策を模索しているシンガポールの行方は、ASEANの行方と重ね合わせて興味が尽きない。