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2015.08.27

ICT新時代

  • 林良造
  • 理事・特別顧問
    林良造

 Abenomicsが胸突き八丁に差し掛かっている。労働力人口が減少する中で実質2%の成長を実現する程度に潜在成長力を回復させることは容易ではない。第三の矢による着実な改革に加えて、何か広範囲にわたる経済産業分野での生産性・付加価値力を引き上げるような投資のタネが渇望される。その可能性を提供するのがインターネットの製造業などへの浸透である。

 70年代・80年代には、当時世界の最先端であった日本のコンピュータ、半導体産業を中心に、精密加工技術、制御技術、半導体技術を集約して、いわゆるハイテク製造業の競争力の基盤を確立した。しかし、その後ソフトウェア・通信ネットワークも含めたICTの時代となり、主導権は米国にうつり、米国ICT産業はサービス産業の生産性向上を通じて米国経済の復活をもたらすとともに自らも経済社会の継続的改革をけん引する産業として圧倒的な優位性を確立していった。このようにコンピュータ産業のあくなき情報処理能力の拡大は、その量的な拡大が一定量に達すると、質的に新しいフロンティアが開け、全要素生産性にインパクト与えるような利用方法が広がり始めるという性格を持っている。

 現在、情報通信技術は丁度そのような爆発の時期を迎えている。無限ともいえる情報量の格納と瞬時の検索が可能になったことに伴って、データが主役となる時代が始まりつつある。それは、ビッグデータ処理に始まり、機械同士が自動的に通信を行い、データを蓄積するIoT時代の幕を開け、人間の事前の詳細な指示書なしに自己発見をしていく人工知能の実現も視野に、自ら最適化を行うシステムをも可能にしつつある。これらは、単一の製品として、また、多くの製品に組み込まれる共通技術として、あるいは社会のシステムを形作ることにより、価値の発見・生産・提供プロセスを変え、労働・生活など社会の根源をも変え始めている。

 もちろん課題も多い。データには、正確な位置や時刻と事象が結び付くことにより個人が特定されることから、個人情報の保護の制度やその利用の制限と切り離すことができず、その調整が国際的に急務となっている。さらに、インターネットの広がりと利用の深化は、進化を続けるネットワーク上の攻撃に対して何重にも備えることを必要とする。このためのサイバーセキュリティ確保にも防護力の強化と国際協力メカニズムが欠かせない。

 この様な制度面での整備の先に、自動車の自動運転、人と協働する各種のロボット、インダストリー4.0など新たなフロンティアが開けてきている。このような変革は、トフラーの「第三の波」以来、節目節目で社会の将来像として描かれ提示されてきている。しかし、最先端の技術により、いわば解像度の全く違う映像システムのようにその応用の範囲・それによる実社会へのインパクトは全く異なったものとなっている。その意味で今まさに新たな時代が開けつつある。そして、このような新たなICT利活用は、日本経済の全要素生産性の向上に絶好の機会を提供している。日本経済の再生の成否はこの機会を利用できるかにかかっているといっても過言ではない。