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2013.08.06

成長戦略とコーポレートガバナンス

  • 林良造
  • 理事・特別顧問
    林良造

 安倍政権の経済政策は、市場の好意的反応を引き出し、日本経済は順調に回復軌道を歩み始めたように見える。そして、関心は、「第三の矢」と呼ばれる成長戦略へと移ってきている。

 その中心は、企業の創意工夫が生かされるように規制や政府の関与の仕組みを変え、透明で合理的な競争市場を作り出そうというところにある。

 他方、企業の経営判断の質や方向に大きな影響を与えるコーポレートガバナンス(企業統治)についても、近年その重要性が再認識され、さまざまな変革の試みも進み始めた。そして、近年の株主総会における外国機関投資家の存在感の高まり、オリンパス事件、川崎重工における社長の解任など企業統治を巡る変化や事件を通じて、日本の現状や今後の課題も明らかになりつつある。
 企業は、利潤の最大化を目指す機械ではなく、株主の利益、経営者の利益、労働者の利益と主張が錯綜する中で、短期・中期の視点を織り交ぜながら、活動分野の選択、投資の決定、日常的な経営資源の配分を行っている。そして、企業統治の仕組みは、様々な主張を取捨選択し、判断の軸を作り上げ、経営判断がその範囲内で合理的に行われるように規律する重要な役割を果たしている。

 企業統治の制度・実態は、国や時代により経済環境や歴史的要因に応じて異なっており、企業経営もそれに対応して一定の傾向を示す。たとえば、米国型、ドイツの共同決定法型、中国の国家資本主義型企業統治などがあり、日本の持ち合い株式型企業統治慣行は、高度成長期の積極投資型経営と過当競争、バブル期の企業統治の不在現象をもたらした。

 そして、今後の我が国の成長のためには、急激に激しく変化するグローバル化した経済環境にあって、俊敏にビジネス機会をとらえ、リスクを管理し、経営資源を最大限に活用する企業が求められている。また、これは、内部留保の蓄積やシェア拡大を目指す経営ではなく、資源の最適配分につながる付加価値創出力を軸にした経営である。そこでは、まず激動する環境に対応できる、CEOの強力なリーダーシップと展開に応じその是正が可能な強力な牽制機能を持たせる仕組みが必要となろう。このためには、社外役員が、事業分野選択、大規模投資、大きなリスクについて、執行側と実のある議論ができるような体制が求められる。

 また、我が国のベンチャーキャピタルをはじめとするリスクキャピタルの手薄さが成長への足かせとなっている現状は、豊富な金融資産が、リスクをとりうるequityとして資本市場に参加しやすくなるような企業統治が必要なことを示唆している。
 そして、年金が、多くの国民にとっての重要な収入になりつつある現在、株式が米欧並みにその重要な原資としての役割を果たすためには、日本企業のROEや配当性向の低さの抜本的改善にむけ、企業価値の最大化を目指す企業統治の定着と、公的私的年金基金の企業統治への積極的参画が必要とされている。このような企業統治を、単なる形式ではなく、実効あるものとする環境を整えることが、持続可能な成長への喫緊の課題であろう。