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2017.03.01

働き方改革―企業が自主的にやることがたくさんある―

  • 須田 美矢子
  • 特別顧問
    須田 美矢子

 2016年9月の第一回「働き方改革実現会議」で安倍首相は、「働き方改革」は第三の矢、構造改革の柱となる改革で、人々のワーク・ライフ・バランスや生産性のために、スピード感をもって実行するとの決意を述べた。潜在成長率を高めるには労働参加率を高め、かつ労働者の生産性を高めることが待ったなしだからだ。

 現在、焦点が当てられているのが長時間労働の是正と同一労働同一賃金の実現だ。長時間労働については、罰則付きで時間外労働の限度を定め、同一労働同一賃金については、同一企業における、正規・非正規雇用の間の不合理な待遇差を是正するとして、それぞれ法改正に向けた作業が進められている。

 安倍首相は「働き方改革」が労働生産性を改善するための最良の手段と述べているが、育児や介護との両立可能性、働き方に中立的な社会保障制度・税制の整備、以前強調されていた解雇の金銭解決の導入など検討が不十分な点も多く、現状では成長戦略の柱として力不足は否めない。

 もっとも労働市場をより効率的な市場にする上でのネックは、政府による法制度の不備が原因というよりは、国民の生き方や経済構造が大きく変わったにもかかわらず企業の雇用慣行はなかなか変われず、対応がゆっくり過ぎる点にあると思われる。とはいえ、今後は人手不足のもと優秀な労働者を引き寄せるために、またIoTやビッグデータの活用といった技術進歩への対応で、企業自身が想定以上のスピードで働き方改革に取り組まざるをえなくなるだろう。

 データが蓄積されたタブレットの活用などで、経験を必要としていた労働が単純労働化していくのは確かだろう。ペーパーレスも進み、なくなる仕事も多いだろう。それでも企業が部署の取り止めに時間をかけるのは、企業内での労働再配分であっても雇用者との交渉にかなり気を使っているからだ。不要となった労働者の活かし方も悩ましい問題だ。労働生産性を高めるには企業内の雇用のミスマッチを減らし有効活用する必要があるが、そのためには中途採用や外国人採用の積極化に加え、社内の労働流動性を高めておく必要がある。

 そもそも業務を知り尽くしている人を職場は手放したがらず、その人に頼りきりだとスキルが暗黙知のままで共有されない。変化への抵抗も生じうる。専門性重視でマネージメント能力に欠ける人材が増えたとの声も聞くが、適当な間隔での異動があってこそ、人材ネットワークや視点の広がり、他の部署との対話力も生まれる。

 より長期的な観点からの社内の労働流動性のためには、まず中長期の経営計画などを通じて、先行きどのようなビジネスモデルを目指し、そのときに必要となる人材はどれほどか、ラフなスケッチを経営者は描いておく必要がある。そして労働者側がそれに向かって早めにスキルアップに取り組むには、将来の自分の可能性がどこにありそうかを知る必要があるが、その際、人事評価を行う管理職の役割が重要だ。能力の評価に加え、望ましい働き方や将来の可能性についてしっかりと議論することで、大まかなキャリアパスが見えてくるからだ。管理職は人を育てることが非常に重要だということだ。

 企業がスクラップ・アンド・ビルドをスピード感をもって断行し、期待成長を高め労働者を安心させることも、労働者の将来を見据えた対応を容易にするだろう。