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2016.06.28

アベノミクス考 かげる株高-緩和からの出口考えよ-

2016年6月18日朝日新聞に掲載(承認番号:A16-0674)

  • 須田 美矢子
  • 特別顧問
    須田 美矢子

 この3年間の日本経済の実績からみると、アベノミクスは全体として、さえない結果にとどまりました。なかでも「第1の矢」の金融政策は、大量の資金供給でデフレ脱却をめざしたリフレ派の「敗北」だと思います。

 政権発足直後からの株価上昇を金融緩和の成果とする見方があります。しかしあれはむしろ、3本の矢を束ねたアベノミクス総体への期待感の表れでしょう。株高は日本銀行の黒田東彦総裁の就任前から始まり、成長戦略への期待が失望に転じるなか、効果がはげおちていきました。

 2011年までの10年間、日銀政策委員会の審議委員をした立場からすると、そもそも金融政策の評価を株価でするのは、おかしな話です。視点があまりに短期的です。金融政策は、もっと長い目でみた実体経済や物価に与えた影響で考える必要があります。

 ではデフレ脱却できたのか。この3年間のコアの消費者物価の上昇率は、消費税引き上げ分を除くと年度平均で0.53%です。黒田総裁になって最初の日銀の物価見通しが1.33%だったのと比べると、その半分にも達しない。桁違いの超緩和を続けてきたのに、です。

 私が審議委員のころから、リフレ派は、緩和の規模が足りないからデフレを脱却できないといい、必要な資金規模も試算していた。実は、黒田日銀の資金供給は、その試算値をはるかに上回っています。でも物価は期待通りにはあがらず、2%のインフレ目標にはほど遠い状況です。

 もちろん量的緩和は、時と場合により効果もあります。金融システムへの不安があるときは、万一への備えになります。しかし、有望な成長分野がなければ、いくら資金を供給しても投資に結び付きようもない。黒田日銀の思惑外れを突きつめていけば、結局は、3本目の矢、成長戦略の不在に行き当たります。

 それなのにいま、デフレ脱却が進まない理由として挙がるのは消費税引き上げの悪影響です。体のいい犯人隠しに使われている。これは罪深いことです。必要以上に消費税のマイナス効果を強調しすぎて、再引き上げのハードルをあげてしまうのが心配です。

 今年初めにマイナス金利を導入してからは、異次元緩和が金融機関や消費者にもたらす副作用やリスクに気づく機会が増えてきました。これを機に、緩和規模の縮小に向けて具体的な出口戦略をどうするか考えておくほうがいい。

 もともと黒田日銀は、サプライズ型の緩和戦略をとってきたので、市場との対話が上手ではありません。超緩和策からの実際の出口はまだ先の話だとしても、そろそろ、良い点、悪い点、すべてさらして、市場と対話を始める時期ではないかと思います。



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