本文へスキップ

2014.04.10

経常収支について-なぜ赤字は問題なのか?-

  • 須田 美矢子
  • 特別顧問
    須田 美矢子

 日本の経常収支は2013年10月以降赤字が続き、昨年の黒字は比較可能な1985年以降で最少の黒字となった。貿易収支は、正確な比較はできないものの、1948年以降で最大の赤字であった。14年1月も季節要因もあるが経常・貿易赤字は拡大している。
 このような動きに対して、赤字を縮小・黒字化しなければならないといった議論が台頭している。代表例が財政赤字との双子の赤字論である。財政赤字問題がこれまで顕現化しなかったのは、赤字を国内でファイナンスできている、つまり国全体では貯蓄超過≡経常収支黒字であったからで、経常収支赤字が続くと政府債務問題に火がつくとの懸念だ。
 様々な議論を見聞きして、経常収支の黒字化が目的化しないか、またそれを通じて本来の議論が歪められないか気になっている。もともと経常収支偏重論には違和感を持っていた。特に経常収支黒字削減が政策目標にされ、それを修正するために内需拡大を、といった議論には異論を唱えた。逆もしかりで、赤字削減・黒字増が政策目的化してしまうことは問題だ。
 循環要因を除いて考えると、経常収支は残差項といえる。経常収支は黒字であれ赤字であれ、国内の家計・企業・政府の貯蓄投資ギャップの合計から求められるからだ。それを経常収支(外国の貯蓄投資ギャップ)に一致させるのが実質為替レートである。この残差項には国内の様々な構造問題が、結果として凝縮された形で表れている。したがって経常収支という症状から病原である国内問題に警鐘をならし、問題に本気で取り込むきっかけにすることは可能であるし問題ない。しかし経常収支の赤字が財政問題を悪化させるという議論になるとどこか変である。症状の改善努力をしたらそれで問題が解決するわけではないことは明らかである。
 それどころかそうすることで問題の根源が見えにくくなり、目を向けなくなったらかえって問題ではないか。
 団塊世代の高齢化とともに貯蓄率低下は避けられず、経常収支赤字化は自然の流れだ。それを増加させる動きもある。非常に少ないグリーンフィールド型の対内直接投資の促進だ。それは日本にとって望ましいことであるが、国内の投資率を高めることにつながり、貯蓄投資ギャップからみて経常収支を赤字化させる。日本が経常収支赤字に陥るのを問題視している人は多いが、貯蓄率が下がる中で同時に投資率も下がって結果として経常収支黒字が維持される経済は―それは成長率の高まらない経済となるが―望ましい経済とはいえない。
 経常収支は残差項でしかも収支尻である。今や資本の流出入は活発化し、経常収支黒字3.3兆円に比べて、日本の対外負債は12年末でみて経常収支黒字の100倍以上(366兆円)ある。純資産残高の296兆円(うち外貨準備109兆円)よりも大きい。いざとなったら動く資金の流れを考えると、収支尻が黒字か赤字かで一喜一憂するのではなく、内外の投資家の信認をどう維持するかが課題だ。国内問題を対外取引問題の収支尻の問題にしてしまってはいけない。経常収支黒字を維持するには、という議論ではなく、問題の本質を議論し、改善をはかり、その結果として生じる経常収支の黒字・赤字はそのまま受け入れればいいのではないか。