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2012.11.26

日銀が連続で追加緩和-コスト軽視の緩和長期化は将来に大きな禍根を残す-

本原稿を基に『週刊エコノミスト』2012年11月13日号に寄稿

  • 須田 美矢子
  • 特別顧問
    須田 美矢子

 9月に、欧米日の中央銀行は資産買入について新たな決定を行った。欧州中央銀行ECBは国債購入プログラム(OMT 買入枠定めず)に合意した。米国では連邦公開市場委員会(FOMC)が毎月400億ドルのエージェンシーMBSの購入を決めた。日銀は資産買入等の基金を10兆円増額した。
 米FOMCではこれに加えて、労働市場の見通しが大幅に改善しない場合には買入を継続し、追加資産購入を実施するとした。そして、景気回復が強まった後もかなりの期間、非常に緩和的なスタンスを維持することが適切で、少なくとも2015年半ばまでFFレート(政策金利)の異例の低水準が正当化される可能性が高いと表明した。
 確かに欧米の表明には刺激的な部分がある。マーケットは欧米の政策を「無制限」、「無期限」ともてはやし、他方、日銀については実施時期は予想外であったがこれまでの延長でしかないとして、欧米との違いを際立たせている。そのような見方は円高の材料としてとりあげられ、デフレ脱却の後ずれに悩む日銀へのプレッシャーになっている。金融政策は万能薬ではなく、デフレ脱却には政府による規制緩和等積極的な対策が必要であるが、根本的な議論が進まず負担は金融政策に重くのしかかっている。刺激的な緩和スタンスを示さないと評価しないというような空気があり、日銀の独立性を弱めるべく法改正への言及など、危うさを感じざるをえない。米国の議会のように金融緩和の行き過ぎを諌める声は聞かれない。
 ECBは無制限とはいえ、国債購入対象となるには厳しい条件があり、ある程度市場の歪みが解消されれば、市場で資金調達する方が低コストになるだろう。米国では、モデル分析から求められる最適な金融政策を採ると、15年の半ばまで非常に低いFFレートが維持され、失業率の改善も早くなることが、イエレンFRB副議長の6月の講演で既に示されていた。そうしたシナリオのもとで、資産の追加購入額はコストの方が大きくなる程にはならないとの判断であろう。しかし、不確実性が高く、欧州問題、米国の財政の崖問題をはじめ世界経済の下振れリスクがある中、また、米国の構造的な失業率の上昇で失業率の低下には想定以上に時間がかかる可能性もあり、緩和政策の打ち止め感がなかなかでてくるようには思えない。
 今年のBIS年報にグローバルに緩和しすぎとの見方が示されているが、問題が顕現化する前に、グローバルな緩和のいきすぎを制御する力はあるのだろうか。グローバルな視点の強化や金融不均衡の蓄積への対応を促すマクロプルーデンスの視点が力を発揮するといえるのだろうか。
 緩和のいきすぎは急激な引き締めか、高いインフレ、そして金利の急騰を生じさせるので、経済物価を大きく変動させ、金融システムを不安定化させる可能性がある。こういった問題を考えると、金融緩和政策を解除する際にソフトランディングできる可能性は今でさえ高くない。将来について悲観的にならざるを得ない。
 問題は解除時だけではない。日本についていえば、物価見通し、金融政策の効果について慎重にみている著者からみて、現在、日銀が目指している消費者物価上昇率1%を、安定的な経済成長を伴って持続的に達成することは、かなりむずかしい。したがって強力な金融緩和状況が相当期間続く可能性が高い。こういった認識が高まると、日本経済が抱える様々な問題が顕現化しにくくなることもあり、痛みを伴う構造改革、財政再建、非効率な企業の退出などを後ずれさせることになり、成長期待が高まらず、問題も悪化する。
 今後画期的なイノベーションが生じない限り、グローバルな成長は人口構造によって影響をかなり受け、アジア新興国の成長にもマイナスの力がかかり始める。中国にこれまでのような高い成長は期待できない。金融危機までの日本の円安期の経験から、輸出企業の好業績から賃金・所得増への波及効果はあまり働かなかったこと、新興国に技術面でキャッチアップされつつあること、通貨安政策は近隣窮乏化の側面があること、円高メリットが生かせないことなどを考えると、円安でうまくいくということでもない。
 海外の中銀当局者から金融緩和政策の効果に限界との声があがりつつある今日、市場の歪みや金融機関等の収益低下といった足もとでみられるコストだけでなく、イグジットや必要な様々な改革の後ずれなど、長期的なコストをしっかり認識した上で緩和政策について議論をしていく必要がある。将来の大きなコストを軽く評価し、現在の小さなゲインを求め、追加緩和に失うものはほとんどないという見方でいると、将来に大きな禍根を残すことになる。