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2014.07.17

新しい均衡点へ 第2幕

  • 堀井 昭成
  • 理事・特別顧問
    堀井 昭成

 昨年このコラムで、「日米とも経済的には望ましくない状態からより望ましい状態への移行が進み始めた」と書いてから丁度1年。アメリカでは、緩やかな景気拡大のもとで金融緩和の手直しが進んでいる。日本でも、経済成長、物価、企業収益、雇用の面で鮮やかな改善がみられる。

 そうしたもとで、街の雰囲気に変化を感じるのは私だけだろうか。特に東京では、中心街で商業ビル、居住用ビルの開発が進んで街が綺麗になるとともに、行き交う人のファッションも明るさを感じさせる。ニューヨーク、ベルリンなど経済が好調といわれる都市でも同様だ。景気は経済指標を超えた雰囲気を醸し出す。もちろん、日本でも海外でも経済の衰退から活気を失っている地域や政治混乱に陥っている国もあるので、印象論で日本全体や世界経済を議論するつもりはない。しかし、世界の中核都市で活気が増していることは、時代精神に影響をあたえるだろう。

 日本のデフレ時代には、沈思・守備・諦観が時代精神、あるいは支配的エトスであった。数年前までいた組織で新しいことをしようとすると、ほぼ常に「必要か?」と聞かれた。「必ず要する」ことは世の中にまれと思っている私とは全く議論がかみ合わない。もし、必要性を判断基準にすべての人が行動していたのならば、未だに電話も録音機も飛行機もなかったはず、エジソンにもライト兄弟にも、発明する必要などなかったのだろうに、などと思っている私は、この思考法をその組織の特性だと思っていた。今想えば、日本の時代精神だったのかもしれない。

 デフレ下では実質金利が高いため、借入を手控えて安全資産を蓄積していれば損をしない。したがって、「考え抜いてから行動を決める」のが正しい行動規範として定着し、必要性をじっくり吟味しても悪くはなかったのだろう。しかし、インフレとなると、行動速度と損益の関係は逆転する。いかに正しい結論を考えていても、素早く動かなければ損をしかねない。そういえば、以前アメリカ人の友人がこんなことをいっていた。Even if you are on the right track, you will get run over if you just sit there.(いかに正しい軌道に乗っていても、そこにただ座っていれば轢かれてしまう。)

 思考と行動は相互作用すると信じている。スポーツや音楽をする人には自明だろう。考えているだけでは強くも上手くもならない。思考・実践の繰り返しのなかで行動が洗練されるのみならず、思考が深まり幅も拡がる。レオナルド・ダヴィンチ曰く、「鉄は使わなければ錆びる、水は澱むと純度を失う、人も動かなければ頭がぼやける(inaction saps the rigor of mind)。」

 デフレ脱却とともに、思考と行動の相互作用を貴ぶエトスが広がるかもしれない。そうなれば、日本経済の消費・投資、貯蓄・借入がシフトし、経済成長、インフレ、資産価格が新たな均衡点に向かう。望ましい経済厚生に見合う均衡点を実現する方策を求めて、当研究所は引き続き思考と行動を続けたい。