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2013.07.04

新たな均衡点へ

  • 堀井 昭成
  • 理事・特別顧問
    堀井 昭成

 長期金利、株価、為替相場がこのところ大きく変動している。高速取引などの取引手法が相場変動を増幅しているといわれるが、ここ数カ月で手法が変化したわけではない。金融市場が世界経済の変化を感じて新たな均衡点を模索する過程とみてよいだろう。とりわけアメリカと日本を巡る基礎的条件が変ったと、金融市場が感じている。

 アメリカについては、2007年金融危機発生後6年近くたった昨今、漸く経済が自律的回復軌道に乗ったようにみえる。危機発生直後にとられた大規模な財政刺激策が巻き戻されたあと、財政赤字が減少しつつ経済が拡大している。信用バブル崩壊とともに大きく下落した不動産市況も回復している。アメリカ経済に進行する好循環をふまえて、FRB議長はこれまでの量的緩和の手直しに言及した。金融引き締めではない。毎月850億ドルもの債券を購入して流動性を供給しているそのペースを、年内に落としていくという。あくまで緩和のペースダウンだ。しかし、緩和ペースになれてきた金融市場には目覚まし時計が鳴ったように響いた。

 エコノミストは転換点turning pointに関心が高い一方、市場は屈折点inflection pointに敏感だ。金融緩和のペースダウンの向こうに、緩和の停止・巻き戻し、そして引き締めを、市場は先読みする。FRB議長発言を受けた直後は、金利高予想が投影して債券安、株安、ドル高が進行した。しかし、この線上で新たな均衡点が成立するとは限らない。早すぎる緩和手直しがデフレリスクを高める一方、手直しの遅れは後々のインフレリスクを高めるとの視点からみれば、適切な手直しが債券高と株高につながる可能性もある。また、アメリカ経済が順調に拡大を続けるもとでの緩和の手直しであるとみると、債券安、株高となっても不思議ではない。つまり、視点によって均衡点に関する予想が異なる。

 日本では、昨年まではデフレ持続のもとで債券高、株安、円高の均衡が成立していた。低成長とデフレを人口老齢化のせいにする退嬰観のもとで、なおさら企業も家計もリスクテイクを控え安全資産を蓄積した。しかし、アベノミクスの登場で、このデフレ均衡は崩れた。本来、経済成長は技術革新と資源の有効再配分によってこそ高まる、そしてそれらはリスクテイクの関数だ。異次元の金融緩和→デフレ予想の転換→実質金利の低下→レバレッジの上昇+リスクテイク増加→経済成長→デフレ脱却という道筋を狙う政策が実施された。そして、経済の破滅的発散を防ぐ財政再建という第二の矢と、経済成長を部門別に刺激する第三の矢も提案された。

 こうみると、日米とも経済的には望ましくない状態からより望ましい状態への移行が進み始めたといえる。しかし、移行過程では、随所に不均衡が現れる。相場変動はそうした不均衡をあぶり出すとともに、調整する役割を果たす。政策の目的整合性が掛け声ではなく事実によって明確になるにつれ、新たな均衡点が見えてくる。当研究所の研究がその一助になるよう願っている。