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2018.05.08

「構造改革」のすすめ

  • 吉川 洋
  • アドバイザー
    吉川 洋

「構造改革」というと、何といっても2001 - 06年の小泉内閣が思い出される。早いもので、17年前のこととなったが、01年につくられた最初の「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」、いわゆる「骨太の方針」がこの言葉の初舞台である。

 当時、「構造改革」とは一体何なのか、が問題となった。一部の経済学者/エコノミストは、これをもっぱらサプライ・サイドの改革と解釈したからである。2000年、米国のITバブル崩壊の影響で、日本経済は深刻な不況に陥った。失業率が5.5%まで上昇する中で、問題は経済の需要サイドにあるのか、それとも供給サイドにあるのか、が問題になった。目の前にある不況が需要不足によることは明らかだ。だとすれば供給サイドを増強しても、GDPギャップを拡大するだけで的外れなのではないか。このように考えるエコノミストも多かったのである。経済財政諮問会議の民間議員として「骨太の方針」の起草に携わった筆者は、あるとき年上の経済学者から「君はケインジアンだと思っていたが、構造改革なんていって、一体いつから宗旨替えしたんですか」といわれたことを思い出す。

 需要不足を解消しGDPを増やすためだけならば、肥大化しムダといわれた公共投資、極端にいえば大仏を造営しても効果はある。しかし、それでは「持続的な経済成長」は生まれない。民需主導の成長をいかにして生み出すか。このことを考えると、経済学が自明としてきた「需要」と「供給」が実はそれほどはっきりと峻別できないことが分かる。

 人口減少の下で日本経済にとって成長を生み出す源泉は、イノベーションだ。このことは今日のコンセンサスといってもよい。ところで、イノベーションは需要サイド、供給サイドいずれの変化か。供給サイドと答える人が多いかもしれないが、たとえば新しいモノやサービスの創出は、供給サイドの技術進歩によるものでも「持続的な需要の創出」という側面をもつ。過去20年、業界を牽引してきた高齢者用の紙オムツは、生産面での技術革新はほとんどないままに、オムツといえば乳幼児用という既成概念を打ち破るイノベーションにより持続的に成長する新しい需要をつくりだしたのである。

 インバウンドの急増ももう一つの例だ。バブルの頃には300万人だった訪日外国人客は、2017年には3000万人ちかくまで増えた。ビザ要件の緩和という政府のアクション、民間事業者によるさまざまな対応は、いずれも供給サイドのイノベーションかもしれないが、それは同時に大きな需要を創出した。

 要するに、イノベーションにおいて需要と供給は明確に切り離せないのである。これこそが01年、「構造改革」という言葉に込められた思いだった。曰く「構造改革はイノベーションと需要の好循環を生み出す。構造改革なくして真の景気回復、すなわち持続的成長はない。」このときの宿題は今も日本経済に残されている。