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2014.11.07

成長の源泉はやはりプロダクト・イノベーション

  • 吉川 洋
  • アドバイザー
    吉川 洋

 2012年12月、安倍晋三内閣誕生以来、日本経済はよくなった。多くの人が言うとおり、日本経済は12年11月を谷として以来、景気の回復が続いている。確かに、今年4月消費税率が5%から8%へ引き上げられると、4-6月期には駆け込み需要の反動減が意外に大きかった。景気の行く末は大丈夫か、7-9月のGDPの速報値へ関心が高まっている。
 短期的な日本経済の動向もさることながら、今や内外のエコノミストがアベノミクスの「本命」として期待するのが「第三の矢」、すなわち「成長戦略」である。挙げられているメニューは様々だが、そうした中で日本経済の課題としてよく指摘されるのが「労働の移動が硬直的すぎる」という問題だ。日本経済が成長するためには、労働の移動がもっとスムーズに行われなければならない。そう言われている。
 もっともな点もあるが、考えてみると、人は今よりもっとよい職場があれば黙っていても自分で移っていくものだ。実際、日本ではいつも労働の移動、すなわち入・離職率が低かったわけではない。高度成長期1960年代の転職率は卸・小売などを筆頭に今よりはるかに高かった。ひるがえってバブル崩壊後は、転職時に賃金が低下した人の比率が高まった。このことは、リストラという言葉を思い出せば、直ちに納得できるだろう。
 労働移動が低いから成長できないのか、それとも成長率が低いから労働移動も低調になるのか。細かく見れば双方向の因果関係がありそうだが、重要なのは後者なのではないだろうか。成長によって人が移りたいと思うようなセクター、企業、職が十分に生み出されれば、人は自然に移動していくだろう。
 では、成長はどのようにして生まれるのか。先進国の経済成長の源泉は、今や言い古された感があるかもしれないが、やはりイノベーションなのである。イノベーションにもいろいろある。とりわけ重要なのが新しい需要を創出する「プロダクト・イノベーション」だ。ここでは一つ具体的な提案を行うことにしたい。
 急速に進む高齢化の下で今後ニーズが高まる分野として介護がある。このことは広く認識されている。しかし、介護の現場では賃金も低く、仕事はきつく、その結果として働く人の定着率も低い。これは、労働生産性が低く、21世紀にふさわしいビジネスモデルがまだつくられていないからである。通常はそうした問題があると、そこにビジネスチャンスが生まれ、問題は民間の企業により解決されていく。しかし、介護は公的保険の対象であり、価格は「公定価格」だ。こうした場合には、政府がマーケットをつくり出さなければ問題は解決しない。介護ロボットの導入ということ一つ考えてみれば、このことは理解できるはずだ。
 関東大震災後の復興過程で、政府は「同潤会アパート」という都市集合住宅のまったく新しいモデルを目に見える形でつくり出した。これが戦後の団地やマンションの原型となった。今、介護の分野もそうした優れたモデルを必要としているのである。それは日本経済にとり大きなプロダクト・イノベーションとなるはずである。日本経済再生のためには、政府もイノベーターにならなければならない。