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2013年6月25日(火) 13:00-14:30開催 場所:キヤノングローバル戦略研究所 会議室3

「フリードバーグ教授とのディスカッション」開催報告

 キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)は、2013年6月25日、プリンストン大学ウッドロー・ウィルソン校のアーロン・フリードバーグ教授(政治学・国際関係学)を招き、同教授が最近日本で出版した翻訳書『支配への競争:米中対立の構図とアジアの将来』(日本評論社)の中で提起した諸問題について、CIGS内外の専門家約10名と議論しました。

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ディスカッション内容紹介

 フリードバーグ教授は、まず「今後4年間に米中はどのような関係を築いていくと考えられるか?」という質問を投げ掛け、概略以下のようなスピーチを行った。

 米国は、アジア太平洋地域においてパワーバランスを維持しながら中国を関与させるという戦略を、90年代初め頃から一貫して採ってきた。この戦略の目指すところは、第一に、中国を現在の国際秩序の中に組入れることであり、次に、中国を独裁的支配から民主社会に変容させるために、着実に中国を関与させることである。

 オバマ政権は、その第1期では、この戦略を前政権から継承するとともに、「関与」の側面を強調する政策をとった。後になって分かったことだが、これは明らかに効果がなかった。オバマ政権の第1期では、中国は近隣のアジア諸国に対してより自己主張の強い外交政策を展開し始めた。その顕著な例は、2010年に起った韓国哨戒艇「天安」沈没事件における米国や韓国との対立、同年における尖閣諸島での中国漁船衝突事件、従来から続いているインドとの国境紛争や南シナ海における周辺諸国との領有権問題などである。中国はこの地域における米国の決意を読み誤ったのかもしれない。

 2010年以降、オバマ政権は、「関与」の色彩を弱め、アジア地域においてパワーバランスを確保する方向にその政策を転換した。この新しい戦略は、オーストラリア・ダーウィンに海兵隊を駐留させることを決定した2011年11月にピークを迎える。米国のいわゆる「ピボット」は、もともと、パワーバランスを維持し中国の好戦的な態度を改めさせるために、この地域において米国が継続的に支援を行うことを同盟国に対して改めて確認するものだったと言える。問題は、米国が中国に対して断固たる態度を取り続けていけるのかどうかということである。

 米中関係の状況は、基本的に変っていないから、「ピボット」は依然として米国にとって最も効果的な政策であるはずだ。にも拘らず、米国がこの戦略を継続するかどうかについて疑問が生じている。これには3つの理由がある。第一に、第2期に入ったオバマ政権では「ピボット」戦略の主要な提唱者の多くが政権を離れ、代わりにこの政策にあまり熱心でない人達が政権入りしている。次に、米国内では、この政策が中国からは挑発的に見えるのではないかと懸念する人達が増えており、そのような人達の間では「関与」に軸を置く政策に戻りたいという気持ちが強い。最後に、恐らく最も重要な理由として、財政制約がある。防衛費は今後10年間に4,000億ドル削減されることになっており、さらに "sequestration"によって一層の削減を余儀なくされるかもしれない。

 米国の政策のこのような不確実性と中国の政策の不安定性という状況の中で、以前から問われている次のような疑問が再び思い起こされる-2010年以降中国は急速に自己主張を強めそれが現在まで続いているわけだが、そのような中国の変化の背後に何があったのだろうか? これには多種多様な見方がある。

 一つの考え方は、2010年に中国が自己主張を強めたのは例外的状況であって、そのような形で対処せざるを得ないような不測の事態が相次いだというのである。上述のような一連の事件が2012年の指導層の交代の準備段階-即ち、伝統的に候補者達が強硬姿勢を取らざるを得ないような時期-に時を同じくして起ったという事実がこの考え方を支えている。このような見方をする人達は、中国は合理的なプレーヤーであり、2010年にとった政策が非生産的で、米国の「ピボット」を招いたことを悟るはずだと言う。従って、中国は時間とともにより挑戦的でない政策をとることが期待できると言う。

 別の見方では、米国と比べたときの中国の力について、中国の指導層の評価が変化し、2008年の金融危機の結果として米国の力が急速に衰えたと中国の指導層が判断したのではないかと捉える。もし中国が自己主張を強めている状況が中国自身の力のそのような再評価の結果であるならば、中国がその態度を改めるかどうかは、米国とその同盟国がそれに対してどのようなアクションをとるかによるのである。中国に対して確固たる政策を維持することによって、中国の指導層に上述の印象が誤りであると認めさせなければならない。

 中国のナショナリズムによって、政策決定者が協調的な政策をとることを阻害されており、このような内的要因によって、中国がより自己主張の強い、より挑戦的な政策をとりがちになっているという説明をする者もいる。これが正しいとすれば、危険をはらんだシナリオだと言える。

 トップリーダーの特徴が「集団的」指導体制に近いようなものに変化しており、そうした変化がゆっくりと進行しているのではないかという推測もある。もしこれが正しいとすれば、弱体な「集団的」指導体制にとってより安全な政策とは、より自己主張の強い、より挑戦的なものであるという逆説的な状況が生じているのではないかと思われる。つまり、指導層交代の準備段階において採られたのと同様の政策が効果的なのだと信じられているのではないか。

 また、最近「急進的」な人民解放軍(PLA)将校がとりわけ敵対的で攻撃的な発言をしていることについて懸念が生じている。PLAは政策決定において影響力があり、PLA内部の利害に一致する強硬な外交政策をしばしば主張する。上述のような発言をする個々人は「急進的」将校ではなく、例えば共産党の理論家のような、軍や治安部隊のエリートの大方の意見を代弁しているのではなかろうか。

 中国の体制の中で勢力を伸ばしている要素として、利益集団が政策の方向性の決定についてより重要な役割を果たしつつあることが指摘される。より自己主張の強い、挑戦的な態度が、国全体の利益を損なうとしても、このような利益集団にとってはその利益を守るのに役立つという状況はあり得る。似たような状況は過去にもあった。特に、第一次大戦前のドイツや第二次大戦に邁進して行った日本などがそうだった。このような状況における指導者は、しばしば国内への影響を重視し、外国への影響を顧みない。

 スピーチの冒頭に提示した質問に対して、フリードバーグ教授は、確たる答えはないとしながらも、以下のような回答を示して、そのスピーチを締めくくった。

 「米中関係は、2012年から2013年頃に見られたように、一時的、表面的に改善するかもしれないが、いずれ最終的には、2010年から2011年頃に見られたように、より競争的で、摩擦と緊張に満ちた状況に戻っていくだろうというのが、最も合理的と考えられる私の推測だ。」

 ディスカッションにおいて、同教授は以下のような見解を述べた。

 尖閣問題における中国の戦略は、日米間の分断を狙いとしているのかもしれない。中国は、米国が介入せざるを得ないような状況を作り出し、そのような状況によって日米関係に摩擦が生じるのを知りつつ、挑発的な行動をとっているのではないか。

 主権争いの決着について、平和的解決を望む以外、米国は何らの立場も取らないとオバマ政権が述べているのは政策として正しい。しかしながら、度を越えた行動に対しては日米が共同して対処することになることを中国に対してより一層強調する必要があると思われる。

 尖閣諸島を巡る最近の日中間の緊張の高まりについては日本に責任があると考えている多くの人々が米国政府や議会の中にいる。同時に、彼らは、中国が反日暴動を暗黙裡に認め、日本の野党党首らが挑発的な発言をすることで、緊張関係をさらに深刻化させていることについては、両国のナショナリストに責任があると考えている。これらのことを日本は認識しておかなければならない。

 シェールガスの発見は、GDPの伸びや財政問題などに関して、米国の経済的な地位を大きく変化させ得る。対照的に、人口問題、環境・資源問題、腐敗不正、格差問題など、中国の抱える諸問題は根源的で深刻なものだ。20年後には、米国と中国の相対的な経済的・軍事的立場はかなり変っているかもしれない。もし中国の力が将来相対的に落ちると中国が考えるとすれば、中国は即座に断固たる行動をとるべきだと考えるかもしれない。その意味では、軍事バランスが中国の方に傾いている今後10年間が最も危険な時期といえる。

 2020年以後、中国経済の成長率は落ちていく。問題は、経済的な困難に遭遇した中国は扱いやすくなるのか、あるいはもっと難しくなるのかということだ。一方では、中国は国内問題に忙殺されるかもしれない。そうでなければ、歴史的事実が示すように、国内的な動揺と困難に直面する体制は、それらの問題から注意をそらし、国の統一を守るために、攻撃的な行動をとるようになる傾向がある。

 中国の政治的な自由化は、長期的にみて最も望ましい方向だ。それによってすべての問題が解決するわけではないが、より自由で、オープンで、純粋に民主的な中国は、国内的にも対外的にもより大きな信頼を得ることになる。あり得る問題は、安定した独裁体制から安定した民主体制に変化していく社会は、現実には最も攻撃的になる傾向があるということだ。これが今後20年間の懸念事項である。

 米国と中国の間には、理念的な、あるいは「価値観」のギャップがある。自由民主体制の外交政策は理想主義的傾向がある。従って、米国は、独裁中国に譲歩することはないし、民主的な友好国や同盟国を放擲することもない。価値観の共有が緊密な協力関係の基礎なのである。よって、米国は他の民主国家とともに国際社会を形成しようと努力する。中国がどの方向に進もうとしているのか明らかではないが、今後10年間に中国を上手に関与させることが重要だ。