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2013年2月26日(火) 10:30-12:30開催 場所:キヤノングローバル戦略研究所 会議室3

CIGSセミナー「Stability in Asia and Roles of Stakeholders」開催報告

2013年2月26日、スリン・ピッスワン前ASEAN事務局長・タマサート大学名誉教授を当研究所にお招きし、CIGSセミナーを開催しました。

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(左からスリン・ピッスワン氏、栗原氏)

開催概要
題目: 「Stability in Asia and Roles of Stakeholders」
発表者: Dr. Surin Pitsuwan (Former Secretary-General of ASEAN & Professor Emeritus, Thammasat University)
モデレーター: キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 栗原 潤


セミナー内容
 キヤノングローバル戦略研究所は、2013年2月26日、前ASEAN事務局長・タマサート大学名誉教授スリン・ピッスワン氏を招き、「アジアの安定と各ステークホルダーの役割」と題する講演をお願いした。30名余りの日本のアジア専門家が参加し、講演後ピッスワン氏と最近の東アジアの情勢について議論した。
 ピッスワン氏の講演の概要は以下のとおり。

 東アジアの安定と安全を保障することは、何よりも東アジアの安定と安全そのもののために重要である。その背景には、この地域が多種多様で著しく異なる国々から成り立っており、多くの火種や断層を抱えているという事実がある。この地域において安定と安全が失われれば、それはグローバル社会に大きなインパクトをもたらすのだ。
 また、グローバル社会は、東アジアの経済成長のために東アジアの安定と安全保障を望んでいる。東アジアの経済成長は、東アジア以外の国々・地域の経済回復に大きく貢献している。その意味で、東アジアの安定と安全保障はグローバルな公共財であり、特に先進国の経済が著しく減速している現在においてはこのことが当てはまる。
 東アジアの安定と安全を保障するための制度やプロセスの構築に貢献できる主なプレーヤーは、日本、米国、中国およびASEANの4つである。ASEANは近年東アジア以外のあらゆる国々からも信頼を得てきた。それはASEANが東アジアにおける唯一の正統な地域フォーラムだからである。ASEANは、諸国の議論のプラットフォームとなり、また関連諸国のコミュニケーションを促進してきた。しかしASEANには、関連諸国をテーブルに着かせ、何か成果を生み出させるような権力や影響力はない。それはASEANが多種多様で著しく異なる国々から成り立っているからである。
 日本と米国はイデオロギー的な背景が似ている。法の支配、ガバナンスの透明性、表現の自由などである。最近中国が自国への自信に基づいて自己主張を強めるようになるまで、これらは順調に機能してきた。ここ数年、中国は特に南シナ海においてしばしば戦力投射を行い、そのために紛争の重大なリスクを生じさせてきた。この状態は東アジアにおける安定と安全を損なうリスクを増大させる。

 この状況における日本の役割は何だろうか?日本には経済力があり、東アジア諸国と共有すべき繁栄と経験がある。これはソフトパワーまたはスマートパワーと呼ぶべきものだ。日本のソフトパワーには、法の支配、民主主義の原理、人権、平等、表現の自由など、日本がその歴史を通じて獲得してきた価値が含まれる。日本はそのソフトパワーをもって東アジア諸国を支援してきたし、またその価値を共有することで東アジア諸国を支援し続けることができる。
 東アジアは極めて流動的な状況にある。サイバー犯罪、軍民共用技術、航行の自由など、多くの重要な問題に対処していかなければならない。南シナ海の行動規範はその一例である。ASEANは、東アジア以外の国々の経験を基に、これらの問題を再検討し、対処したいと考えている。幸いに米国、ロシア、EUなど東アジア以外の諸国は東アジアの諸問題に進んで関わろうとしている。なぜなら東アジアの安全保障状況がグローバル社会に影響を与え、繁栄と経済成長を維持しようとする彼らの継続的な努力に悪影響を与える可能性があるからだ。ASEANも、全ての対立する利害、相反する課題、矛盾する目的のバランスを保ちながら、東アジアの安全保障課題に対処するために最大限の努力をしていく。またASEANはグローバル社会のメンバーに対して、対立課題の議論と交渉のためのフォーラムを提供していきたい。

 聴衆からの質問に答えて、ピッスワン氏は主として以下の諸点について述べた。
◇ ASEANの加盟国のいくつかが最近まで小競り合いをしていたのは事実だが、ASEANの精神およびその団結力・連帯感は多くの紛争を事前に封じ込めたと言える。
◇ 東アジアにおける大国とその対立に対処するのはASEANにとって容易ではない。このために2012年7月のASEAN外相会議においては共同宣言を出すことができなかった。この問題は今ではやや収まっているが、ASEANにとって大国に対処していくことが今後とも課題であり続けることを示している。
◇ ミャンマーはASEANのシナジーから大きな利益を得ることができる。だからこそミャンマーは1997年にASEANに加盟したし、2008年にサイクロン・ナルギスに襲われた際にグローバル社会に国を開いた。ミャンマーは、ASEANの議長を務める2014年までに、また選挙の行われる2015年までに、雇用創出や経済成長など何らかの成果を示さなければならない。故にミャンマーはASEANや他の国からの援助を必要としている。
◇ アウンサンスーチー女史は自宅監禁状態にあった過去18~20年、ASEANとの間でいい経験をしたことがなかった。しかし彼女が国を指導する立場に立ったとき、ASEANの役割とASEANとのシナジーはミャンマーの経済発展にとって重要になるはずだ。
◇ ASEANは争いのある課題と異なる利害をもつ多様な国々から成っているが、それでも提携国や友好国からグループとして処遇されることが重要である。グループとして処遇されることによって、ASEANはグループとして行動するようになる。
◇ 中国はその重み、大きさ、市場および迅速に決断できる能力に強みがあり、日本は技術、経験および効率的な運営に強みがある。ASEAN加盟国は特定の目的に応じてより優れたいずれかの様式を選ぶことができる。ただし、過去45年間、ASEANと共にあったのは日本だけである。日本の様式は依然としてASEANにとって有益であり、ASEANが国際社会に対して望むものでもある。
◇ 日本は、経済発展のためだけでなく、日本が優れている科学技術、人材開発、その他のソフトバリューのためにASEANと共に歩むことが期待されている。マハティール前マレーシア首相が30年前に言った「ルックイースト」政策は今でもASEANにおいて大きな共感をもっている。日本とASEANが手を携えて行けば、経済的な繁栄だけでなく人類の進歩のための社会を作り出すのに大きな貢献をするだろう。