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2017.08.25

米の対北攻撃は真夏の怪談?

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2017年8月17日)に掲載

  • 宮家 邦彦
  • 研究主幹
    宮家 邦彦
  • [研究分野]
    外交・安全保障

 ある会合で米中の旧友と再会した。3人で議論するのは久しぶりだった。

 米国の友人が口火を切った。


●朝鮮半島の現状は実に危険だ。北朝鮮の動きは不確実性に満ち、ワシントンでは大統領が北に対する物理的攻撃に言及したが、その可能性を誰も否定しない。

●北朝鮮による核弾頭付き大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発は、米国の拡大抑止と核拡散防止条約(NPT)の効果を減じるだけでなく、他国や非国家への核兵器拡散を促進しかねない。

●対北朝鮮制裁をさらに強化しようとしても中国が協力し続ける保証はない。北朝鮮ミサイルの迎撃や北に対する限定的攻撃を行っても、金正恩氏は考えを変えないだろう。

●こうした出口のない状況を打開するには、北朝鮮の核開発断念に対し、最大限の報酬を用意しつつ、北朝鮮との対話を再開するしかない。

●そこでは2つの凍結が必要だ。すなわち、韓国への高高度防衛ミサイル(THAAD)配備と北朝鮮の核開発、これらの同時凍結である。


 ここで筆者が噛みついた。

 「またまた対話かい。今までわれわれは何回だまされたことか。以前も北朝鮮は核開発を凍結すると約束しカネだけ取った後、核兵器の開発を続けたではないか。北朝鮮は時間稼ぎしているだけだろう」

 中国の友人は黙ったまま。米国の友人が続けた。

 「しかし、こうした対話を行うには、米中間で朝鮮半島の将来と、万一有事となった場合の対応に関する共通理解が必要だ...」

 ようやく中国の友人が重い口を開いた。

 「だから中国は前々から6カ国協議の再開を主張してきたんだ。協議が中断したのは米側が態度を変えたからであり、責任は米国にある。中国はこれまでも対北朝鮮圧力に協力しているではないか」

 再び筆者が噛みついた。

 「ここで犯人捜しをしても仕方がない。中国が何も言えないのは、中国共産党内で朝鮮半島の将来につき議論が収斂(しゅうれん)していないからだろう...」

 ここで、米中の友人が口をそろえて筆者を罵り始めた。

 「では、一体どうすればよいと君は言うんだい!!」

 筆者はこう反論した。(1)われわれはこの議論をもう10年近く続けている。北朝鮮のICBMが完成することは分かっていた話ではないか。(2)君らが言うような戦術的決断だけで、朝鮮半島の将来という戦略的問題を解決することなど不可能だ。(3)今必要なことは米中間の戦略的妥協である。中国は今のままの北朝鮮を将来も維持できると思っているのか。(4)中国はどのような朝鮮半島なら受け入れ可能なのか。この問題につき中国は戦略的な判断を今下す必要がある。(5)中国が決断さえすれば、統一朝鮮半島のどこに米軍を駐留させるかなどにつき米国も妥協の用意があるだろう。(6)中国はこの戦略的決断を回避し続けてきた。その結果、問題解決は長引き、結果的に北の核保有を許したのだ。

 再び中国の友人が声を荒らげて言った。

 「中国は一貫して協力的だった。『最後の最後』の段階では必ず正しい決断をする。今はそれしか言えない」

 翌朝のテレビ番組では、米国が北朝鮮を先制攻撃する「Xデー」を特集していた。コメントを振られた筆者はこう答えた。

 「先制攻撃の『可能性』があることと、実際に攻撃を『実行』することには雲泥の差がある。朝鮮戦争再発を誘発しない程度の低レベルの物理的対北朝鮮攻撃の成功を一体誰が保証できるのか。間違ったメッセージを金正恩に送ることになるので、『攻撃は不可能』とは言わないが...」

 米国の対北攻撃が、実に恐ろしいが実際には起きない「真夏の夜の怪談」であることを祈りたい。

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