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2017.08.02

敵基地反撃能力-弾道ミサイルへの対抗策-

読売新聞2017年7月31日に掲載

  • 神保 謙
  • 主任研究員
    神保 謙
  • [研究分野]
    外交・安全保障

 自民党の安全保障調査会は6月に次期中期防衛力整備計画(中期防)に向けた提言の中間報告を決定し、北朝鮮の核・ミサイルの脅威が高まる中で「我が国独自の敵基地反撃能力」について迅速に検討することを促した。

 日本の防衛政策の基礎をなす専守防衛は「受動的な防衛」を謳っているが、日本に対して弾道ミサイル等の攻撃があった場合に「座して死を待つ」のではなく、敵基地を攻撃することは法理的に自衛の範囲という解釈はかねてより定着している。しかし、実際の打撃力は日米同盟の下で専ら米国に依存し、自衛隊はその能力・意図を有していないという構図(矛と楯の関係)が長らく続いてきた。

 今回の自民党の提言の新しさはこの敵基地反撃(攻撃)論の具体的検討を促したことにある。しかし、敵基地反撃能力を日本の防衛政策の中でどのように位置づけるのか、その戦略的合理性と危険性は何か、具体的な装備体系や態勢に何が必要とされるか、日本の限られた防衛予算の効率的運用にどれほど寄与するか、といった具体的論点について、現時点で国内の議論が深まっているとはいえない。

 敵基地を攻撃する戦略的合理性については三つの考え方が想定できる。第一は、弾道ミサイルが発射される前の段階で、相手のミサイル能力を無力化することである。しかし北朝鮮のミサイルが移動式発射台を多数配備し、地下施設等で秘匿性を高め、発射手段を多様化する中、我が方の限定的な巡航ミサイル攻撃等でこれら能力の無力化を達成することは困難だ。

 第二は、弾道ミサイル攻撃に対する報復能力を整備し、独自の抑止力を追求することである。そのためには相手に耐え難い損害を与える第二撃能力の整備が不可欠となる。しかし相手の対軍事施設や都市等に対する大規模な報復能力の保有は、「自衛のための必要最小限」を旨とする我が国の専守防衛の考え方から大きく逸脱することになる。

 第三は、限定的な敵基地反撃能力と弾道ミサイル防衛を組み合わせ、被害の局限を図るという考え方である。限定的な攻撃能力であっても飛来する弾道ミサイルの総数を減らし、ミサイル防衛の迎撃信頼性を高め、総合的な対弾道ミサイル対処能力の向上を目的とする。

 日本の防衛政策の基本理念と予算制約の下、実際に追求できる選択肢は第三の考え方に他ならない。その場合でも打撃力の主役を担うのは米軍と韓国軍の攻撃(キルチェーン)であり、自衛隊は補助的な支援攻撃を担う公算が大きい。敵基地反撃能力はその是非を含め、日米同盟及び日米韓の緊密な協力の下で追求されるべき課題なのである。

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