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2017.03.22

南スーダン:PKO撤収後の議論こそ重要

  • 本多 倫彬
  • 研究員
    本多 倫彬
  • [研究分野]
    外交・安全保障

 南スーダンに派遣されていた陸上自衛隊部隊の撤収が発表された。日本国内では自衛隊のリスクを回避したことへの支持と、国際平和維持活動(PKO)の規模縮小への少なからぬ懸念が混在した状況にある。筆者は南スーダンが事実上の内戦に陥っている現在、自衛隊の撤収は基本的に妥当な判断だったと考えている。しかし重要なことは、自衛隊撤収をもって国内の議論を収束させることではなく、今後の南スーダン支援やPKO派遣のあり方を徹底的に議論することである。


 南スーダンで活動する国連PKOに派遣された自衛隊施設部隊は、その土木技能を活かして南スーダンの道路など、インフラ整備に力を発揮することを目的としていた。カンボジアや東ティモール、ハイチ、さらに国連PKO枠外のイラク派遣などもつうじて、陸上自衛隊が積み上げてきた国際平和協力活動のこれまでの経験を踏まえたものだった。


 南スーダンの国連PKO自体、設置された当初は、南スーダン政府の統治能力を強化して、国の基盤づくりを支援することが任務の主体だった。施設部隊による国づくりの経験を積み重ねてきた自衛隊が、活動しやすい国連PKOと思われたのである。


 しかし、2012年の派遣開始以降、南スーダン政府内での対立が表面化し、2013年末には大規模な武力衝突が発生する。悪化する治安情勢の下で、国連PKOの最重要任務は、国づくり支援から文民の保護に移行した(=マンデートの変化)。PKO部隊は、国連やNGOの職員、あるいは住民などを、必要であれば武力を行使して守ること、必要な際には戦闘を行うことが、重要な任務とされたのである。


 こうした情勢の変化の下で、2016年7月にJICA職員らが緊急退避する事態が発生し、自衛隊部隊について、いざという時の駆け付け警護任務の付与が注目されることとなった。これが新たな安保法制下での基本計画に組み入れられたのは昨年10月のことである。もっとも自衛隊の駆け付け警護や宿営地の共同防衛は、受動的・限定的なもので、国連PKOの任務として能動的に行われる文民の保護とは異なる(国内の議論ではこの点に多くの誤解がみられる)。自衛隊部隊は文民保護の権限も能力も持たないまま、不安定な治安情勢下で施設活動の縮小を余儀なくされてきたのである。


 国会では2015年7月の南スーダン情勢悪化に関する自衛隊の日報の公開と、同日報内で記述された「戦闘」や「衝突」といった概念が盛んに議論された。しかしそれらは、自衛隊が南スーダンに展開していることの法的な整合性についての議論に過ぎない。たとえば南スーダンの情勢認識についても、人口の半数が難民となっている人道危機下であるにも関わらず、「安定している」とする答弁が行われてきた。南スーダンの話をしながら、実際には南スーダンの話はほとんど存在しなかった。


 南スーダン派遣部隊の撤収によって、南スーダン支援は、官邸や国会の関心の外に出されることになる。その結果、日本から南スーダンへの支援は総体として減っていくだろう。また、南スーダン国民の多くが難民化し、国連が深刻な飢餓の発生を警告する中での撤収は、日本が南スーダンを土壇場で見捨てるというメッセージをもつことも否めない。


 しかし、自衛隊派遣当初の想定から大きく異なる任務を主とする南スーダンPKOでは、もはや自衛隊部隊の派遣が続けられたからといって、何か有効なことができるとは言い難い状況にあった。むしろ、国内の政治的対立の象徴の様相を呈していた自衛隊部隊の撤収によって、南スーダンで日本はなにができ、どうすべきか、南スーダン支援のあり方の検討を、派遣部隊をどうするのかという議論を越えて、はじめて可能にするといえよう。


 同時に、安保法制以降の日本の国際平和協力のあり方についても、南スーダンPKOでの「駆け付け警護」任務付与に矮小化されてきた議論の枠組みを脱することになる。南スーダンでは司令部要員が活動を継続することを踏まえれば、今後は安保法制によって拡がった司令部要員の取り組みなども、日の目をみることになるかもしれない。次にどこの活動に、いかなる形で自衛隊を派遣するのかという問題を含め、これからの日本の国際平和協力のあり方について、安保法制の中身を踏まえた議論も可能となる。筆者としては、従来の数百名規模の部隊派遣を中心とするものから、平和維持部隊全体の司令官を含めた重要ポストへの自衛隊幹部の派遣、さらに国連PKO以外の活動への派遣などに目を向ける契機となることを期待している。同時に、能力構築支援や防衛装備品輸出など、近年進められている取り組みとの連携も進めていければ、単に施設部隊が存在するよりも、より効果の高い平和協力が実現できるだろう。


 また、すでに150万人にのぼる喫緊の南スーダン難民への支援は、自衛隊が南スーダンの首都に存在するか否かよりも重大な課題だろう。既に日本政府は、600万ドルの人道支援を表明した。これらの緊急対応に加えて、独立以来、日本が係ってきた南スーダンの安定化、紛争予防に何ができるのか、それが問われている。日本はアジア地域では、紛争予防や平和構築の経験を持っている。現在も取り組みを進めているフィリピンのミンダナオ和平や、かつてのアフガニスタン和平では、対立する紛争当事者のリーダーらを日本に招き、直接会談によって平和の定着に向けた道筋を付けたこともある。こうした経験を踏まえ、可能であれば、日本がこれまでの活動をつうじて培った南スーダンのネットワークを活かして、南スーダンの紛争の再停止に向けた調停などもできればと願う。


 いずれにしても、南スーダンへの支援と日本の国際平和協力政策の再検討、それにつなぐことができれば、今回の南スーダンからの自衛隊の撤収が、意義あるものとなる。



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