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2017.01.12

3つのトランプ外交チーム

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2016年12月22日)に掲載

  • 宮家 邦彦
  • 研究主幹
    宮家 邦彦
  • [研究分野]
    外交・安全保障

 どうやら米国の次期大統領は本気らしい。2日の台湾総統との電話会談に続き、11日には対中爆弾発言が再び炸裂した。トランプ氏はFOXテレビのインタビューで「貿易などの問題で中国と合意でもしない限り、なぜ『一つの中国』政策に縛られる必要があるのか自分には分からない」と述べたのだ。

 前回、米台電話会談は米中国交正常化以来最大の外交的サプライズと書いたが、中国側反応は総じて抑制されたものだった。一方、「一つの中国」政策自体を疑問視する今回の発言は偶然の産物や「台湾の小細工」などではあり得ない。このトランプ氏の確信犯的発言は、「国際社会に既に根付いた枠組みは不変であり、米国の政策が変わるとは思わない」といった中国側の希望的観測を根底から覆すものだ。さすがの中国も今回は具体的報復措置をとるかもしれない。先週は中国共産党を研究する誰もが、そうした事態を懸念し始めていた。

 案の定、今回中国側は素早く動いた。あの爆弾発言から4日後の15日、中国人民解放軍海軍はフィリピン本土に近い南シナ海公海上で米海軍の無人潜水探査機を奪取するという前代未聞の挙に出た。中国国防省は、「不審な装置を発見し、船舶の航行と人員の安全に危害が及ぶのを防ぐため識別調査した」と述べたが、これが一連のトランプ言動に対する中国側の警告的報復であることは明らかだ。

 それでも中国側の対応は抑制されたものだった。公海上で他国の調査機材を理由もなく奪取する行為は国際法違反だが、中国側は直ちに「返還」に言及したからだ。この問題で米国と軍事的緊張を高める意図はないのだろう。これまで中国側の報復内容として予想されていたのは、対米国交断絶などの外交的措置、対米・台湾企業への制裁などの経済的措置、台湾や南シナ海での物理的挑発などの軍事的措置だった。

 中国側が今もトランプ政権との対話の余地を残そうとしているらしいことは、不幸中の幸いだろう。それにしても、トランプ政権の外交安保チームは一体何をしているのか。現在同チームは3つのグループに分かれ、迷走しているとの見方が有力だ。

 第1のグループはトランプ主義者、すなわち「米国第一」で、「応分の経済的負担をしない同盟国は守らない」と考えるトランプ氏のクローンたちだ。彼らには同盟国の防衛義務が米国を偉大にするという発想がなく、外交安保上の利益を交渉の取引材料と見る傾向がある。

 第2のグループは新十字軍の戦士たち、すなわち米国に対する最大の敵を中東のイスラム教過激主義と考え、テロとの戦いを最優先する元軍人・文官のグループだ。彼らは同盟国の重要性こそ理解するものの、中露の力による現状変更を同盟国と協力して抑止することよりも、中東でのテロリスト掃討作戦を優先するらしい。

 第3のグループはワシントンの伝統的外交安保政策関係者のうちトランプ候補を忌避する公開書簡に署名しなかった日和見の権力亡者たちだ。トランプ外交の成功にとっては不可欠な人材だが、彼らが大統領府の中枢に入る可能性は低い。実務経験の豊富な彼らが重用される保証はないのである。

 さらなる問題は、これら3グループが共通認識を有するどころか、相互に不信感を持ち、一貫性ある政策立案・実施を期待できそうにないことだ。それでは、トランプ氏に台湾総統の電話を取り次ぎ、「一つの中国」政策を疑問視させた連中はどのグループに属するのか。彼らの政権内での役割は何なのか。ネオコンにも近く親台湾・反中国である彼らは第1グループの周辺にいるというのが現時点での筆者の見立てだが、主導権争いが迷走すれば、いずれ東アジアを不安定化させる可能性がある。やはりトランプ外交チームの動きは要注意だ。

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