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2016.10.20

米中の認識ギャップ

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2016年10月13日)に掲載

  • 宮家 邦彦
  • 研究主幹
    宮家 邦彦
  • [研究分野]
    外交・安全保障

 最近、「米国の対中観、中国の対米観が急速に悪化しつつある」といった俗説をよく聞くが、筆者にはちょっと違和感がある。今回はそう考える理由をご説明しよう。

 まずは米国の対中観から。大統領選投票日まで1カ月を切ったが、中国に対する両候補の主張は厳しい。トランプ氏が中国を為替操作国と認定し、東・南シナ海で米軍展開を強化すると主張すれば、クリントン氏も中国の不公正貿易慣行や海洋上の挑発行為に反対を表明する。最近の大統領選では必ずある主張だ。

 一方、中国はクリントン氏よりもトランプ氏を歓迎するとの報道も以前はあった。クリントン氏が対中強硬派であるのに対し、トランプ氏なら日米同盟が弱体化するとでも思ったのか。筆者はこうした報道にも疑問を持つ。推測や直感だけで米中関係を論じるのは危険極まりない。分析は客観的事実と具体的数字に基づくべきだろう。

 そうした観点からは、最近発表された中国人の対米観に関する世論調査が興味深い。それによれば、中国人の50%が米国に対し好意的な意見を持つ一方▽45%が米国は中国に対する主要な脅威だと考え▽52%が米国は中国の強大化を阻止していると疑い▽75%が中国は国際的な重要性を増したと感じつつも▽56%が中国政府は国内問題解決に集中すべきであり▽77%が外国の影響から中国式生活を守るべきであり▽59%が近隣国との領土問題は軍事衝突に発展し得る、と考えているそうだ。

 以上が正しければ、引き続き中国人は米国が中国の強大化を阻止しようとする最大の脅威と考える一方、全体としては、海外よりも国内に関心を持つ「内向き傾向」が高まりつつあるといえるだろう。

 それでは、米国人の対中観はどうか。手元にある2012年のピュー研究所世論調査によれば、米国人の65%が米中関係は良好と考える一方▽66%が中国を米国にとっての競争者、15%が敵対者、16%がパートナーと考え▽68%が中国は信頼できない国だと感じ▽26%が中国を米国にとって最も危険な国(イランは16%、北朝鮮が13%)とみているそうだ。4年前の数字ではあるが、今もあまり変わっていないはずだ。

 しかし、米国議会の対中懸念は近年確実に高まっている。米中関係が改善することは当面ないだろう。

 今筆者が最も懸念するのは中国の対米観が大衆迎合的ナショナリズムというプリズムを通じ必要以上に悪化する可能性だ。最近中国共産党系知識人の著作などを読むたびに思うことは、中国の対外政策が強硬化し、中国の実力以上のレベルにまで昇華するのではないかという恐れである。

 中国は19世紀中頃のアヘン戦争以来、長年諸外国に虐げられてきた。今こそ、欧米中心の世界における中国の発言権を拡大し、強大となった中国にふさわしい地位と尊敬を得るべきだ。米国の対中国敵視政策は1980年代末から既に始まっており、米国は今こそアジア関与をやめるべし。中国の文献を読んでいると、このような不健全な中国の矜持(きょうじ)が行間に見え隠れする。

 しかし、米国の対中観の悪化は緩慢かつ比較的最近のものだ。当初中国に批判的だったブッシュ政権も2001年の同時多発テロ以降は中国との協調を優先した。オバマ政権も当初は対中協力・友好を模索し、習近平政権にさまざまな秋波を送った。最近の関係悪化は中国側がこれに応えなかった結果でしかない。

 中国が対中懸念を持つのは米政府だけだと思っているのに対し、米側は対米強硬論が共産党の一部にすぎないと考えているかもしれない。そうだとすれば、米中間の戦略認識のギャップは予想以上に大きい。日本としても、このギャップの行方を注視する必要がある。


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