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2016.09.27

核実験という不都合な真実

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2016年9月15日)に掲載

  • 宮家 邦彦
  • 研究主幹
    宮家 邦彦
  • [研究分野]
    外交・安全保障

 今月9日、北朝鮮が5度目の核実験を強行した。ほぼ3年に1度の周期が今回は前回から僅か8カ月後。有力紙の社説はそろってこう論じた。

 暴走阻む抑止力強化を(産経)、暴走脅威に冷静対処を(読売)、体制脅かす強い制裁を(日経)、自らを窮地に導く暴挙(朝日)...。どれも似たり寄ったりで、あまり代わり映えしない。

 要するに北朝鮮の核実験は

  • 容認できない暴挙

  • 核で国力誇示する異常行動

  • 金正恩政権は予測不能

 だという。韓国の朴槿恵大統領も「金正恩の精神状態は統制不能」と述べたが、本当にそうか。北の判断は意外に合理的かもしれない。社説は続く。

  • 対北制裁の抜本的強化を

  • 体制を脅かす強力な制裁を

  • 早く効果ある制裁決議を

 真に体制を脅かしたければ、米韓が第二次朝鮮戦争を覚悟するか、中国が対北朝鮮支援を停止すべきだが、これらは当面実現しそうにない。

 米韓連合軍は数週間の戦闘で北朝鮮に勝つだろうが、その間にソウルは火の海となり韓国経済が崩壊するからだ。

  • 国際社会は結束すべし

  • より厳格かつ実質的措置へ

  • 中国は対北制裁強化すべし

 言うは易しいが、これも実現は難しい。中国にとり北朝鮮は米軍が駐留する韓国とのかけがえのない緩衝国。北朝鮮の崩壊は自由民主主義・市場経済の、潜在的に嫌中で、米軍が駐留し核兵器を保有しかねない統一朝鮮国家と中国が直接国境を接することを意味する。これは国内に200万ともいわれる朝鮮族を抱える中国の安全保障上の大問題だろう。社説はさらに、日本政府にも提言を行っている。

  • 日米韓も新アプローチを

  • 日韓は軍事情報包括保護協定(GSOMIA)締結を

  • まずは北の核開発の凍結を

  • 日本は主体的に外交努力を

  • 米中への働きかけが重要

 「主体的」で「新たなアプローチ」などと書くのは簡単だが、具体的に何を想定しているのか。「まずは核開発の凍結」というが、核兵器を既に保有する北朝鮮には凍結も断念も問題外だろう。さらには、こんな提言まである。

  • 偶発的衝突を回避すべし

  • 冷静な対応をとるべし

 衝突回避は当然だが、「瀬戸際政策」を繰り返す北朝鮮に対する「冷静対応」は結果的に「宥和(ゆうわ)政策」となる。宥和とは、戦争に対する恐怖や倫理的信念に基づく外交方針で、敵対国の主張をある程度尊重して問題解決を図ろうとする政策のことだが、これがどこまで今の北朝鮮に通用するのか。大いに疑問だ。

 北朝鮮の核兵器開発を断念させるには何が必要か、とよく聞かれる。答えは、「北朝鮮は生き残りのため戦略核ミサイル部隊をつくりつつある」ということに尽きるだろう。北朝鮮の判断は誤りだが、それなりに合理的だ。イラクのフセイン政権は核兵器を持たなかったから簡単に崩壊した。リビアのカダフィ政権は核兵器開発を中断したから崩壊した。それに対し北朝鮮の核兵器開発は自国の生き残りを保証しているではないか。

誤解を恐れずに言おう。北朝鮮に核兵器開発を断念させるには、核兵器開発によって北朝鮮が生き残れなくなることを自覚させる必要がある。しかし、北朝鮮は、中国が自国を見捨てず、失うものが多過ぎる韓国に第二次朝鮮戦争を戦う意図がないことを既に見抜いている。物騒な話だが、金正恩朝鮮労働党委員長に「現実に体制が崩壊する」という究極的な危機感でも持たせない限り、彼らは核兵器を断念しない。「冷静ある態度を維持し、偶発的衝突を避けつつ、真に実効性ある制裁を発動する」ことの限界はもう明らかだろう。

恐ろしい仮説ではあるが、韓米日が第二次朝鮮戦争でも覚悟しない限り北朝鮮は関係国の足元を見続ける。今回の核実験が示すのは、このような「不都合な真実」なのだ。


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