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2016.08.22

裏目ばかりの中国外交

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2016年8月18日)に掲載

  • 宮家 邦彦
  • 研究主幹
    宮家 邦彦
  • [研究分野]
    外交・安全保障

 最近の中国外交は見るも無残。やることなすこと、ことごとく裏目に出ている。原因は何なのか。まずは事実関係から始めよう。

 【南シナ海問題】フィリピンが中国の人工島問題を仲裁裁判所に提訴したのは2013年。昨年10月、同裁判所は中国にも配慮してか、比側主張の一部にしか管轄権を認めなかった。にもかかわらず、中国は同裁判所に一切協力せず、無視を決め込んだ。案の定、本年7月の判断では中国側主張の多くが否定された。外交的にはあまりに稚拙なやり方だ。

 【日中関係】14年11月の日中首脳会談以降も両国関係は進展していない。それどころか、最近尖閣諸島付近では中国公船・海軍艦船の活動がエスカレートしている。こうした動きは日米同盟を一層強化させるだけなのだが、解放軍など対外強硬派は国内の国際協調を求める声など意に介さない。

 【米中関係】一連の首脳会議でオバマ大統領が習近平主席に求めたのは南シナ海の非軍事化と米私企業の知的財産権へのサイバー攻撃の中止だ。しかし解放軍が関わるためか、習氏はゼロ回答を繰り返す。米国はサイバー戦担当の現役中国軍人を起訴し中国が造った人工島沖にイージス艦を派遣した。

 【北朝鮮】中朝間の軋轢が始まったのは80年代から。当時訪中した北朝鮮の金正日総書記は改革開放を始めた中国を「修正主義」と批判した。90年代以降、金総書記は先軍政治の下で核兵器開発を始める。中国は緩衝国家たる北朝鮮を見捨てることができない。金一族は中国外交の足元を見て生き延びたのだ。

 【韓国】一時は蜜月に見えた朴槿恵(パククネ)韓国大統領との関係も悪化しつつある。中国が反対する中、韓国は最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の配備に踏み切った。中国は猛反発し、韓国批判キャンペーンと報復措置を打つも後の祭り。中国が韓国に投資してきた外交的資源は無駄になった。

 【台湾】中国は馬英九前総統の台湾との関係を深めたが、今年1月の総統選で民進党・蔡英文氏の当選を阻止できなかった。ここでも中国外交は投入した資源に見合う成果を上げていない。

 最近の成功例といえば、歴史問題でロシアを対日批判に取り込み、アジアインフラ投資銀行(AIIB)設立で欧州を巻き込んだことぐらい。でも、筆者の関心は中国外交の失敗自体ではない。その裏にある理由は共産党中枢の国際法「音痴」だけではないだろう。筆者の仮説はこうだ。

  • 今の中国には一貫した戦略に基づく外交政策につきコンセンサスがなく、政治局常務委員7人の中にも外交的知見を持つ者がいない。

  • この外交的真空状態をめぐり、自薦他薦の政治プレーヤーたちは敵対者を陥れるかのように競い合うから、外交政策は場当たり的に決まる。

  • 論争は恐らく重層的だ。政策面では、韜光養晦(とうこうようかい)型国際協調派と民族主義的対外強硬派が綱引きを行っている。

  • 一方、権力闘争の面では、習主席の周辺で彼の仲間と政敵たちが、政策とは別の次元で綱引きを続ける。この2つは相互に関連し合う。

  • 問題は現在国際協調派の力が弱いことだ。仮に、国際協調策が進んだとしても、不満を持つ対外強硬派には、そうした流れを潰せるだけの物理的パワーがあるからだ。

 最近の中国のちぐはぐな動きもこれで一応説明可能なのだが、これを具体的に検証することは非常に難しい。

 満州事変(昭和6年)を起こした85年前の日本にも政治の中枢に外交的真空があった。当時日本の政治指導者には現場の独断専行を制御するだけの外交的知見がなかったのだ。中国が似たような状況に陥ることはない、と誰が断言できるだろうか。


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