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2016.05.10

オバマ外交の本質と限界

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2016年4月28日)に掲載

  • 宮家 邦彦
  • 研究主幹
    宮家 邦彦
  • [研究分野]
    外交・安全保障

 この原稿はワシントン発帰国便の中で書いている。今回は米大統領選でなく、オバマ外交を取り上げたい。きっかけは米議会スタッフの友人が発した次の質問だった。

 「最近日本政官民の友人から、『日米には戦略レベルで深刻な乖離がある』と聞かされるのだが、本当にそうか」

 この質問は意外だった。第2次安倍政権の発足当初はギクシャクしたものの、最近の日米同盟関係は沖縄を除き結構良好だと思ったからだ。だがまじめな友人が言うのだから事実なのだろう。なるほど思い当たる節もある。同盟国首脳を激怒させかねないオバマ大統領の言動が最近、米誌で報じられたからだ。欧米・中東では大騒ぎだが、日本ではあまり報道されなかった。まずは概要をご紹介しよう。

 オバマ大統領は...。


 ●サウジを同盟国と扱うことを明らかに不快に感じていた

 ●サウジはイランと中東を共有する道を学ぶべしと考えた

 ●リビア・シリアでの外交的失敗は英首相の指導力不足にも原因があると考えた

 ●英国のEU離脱の是非を問う国民投票に反対していたという。事実ならばサウジ王族や英国政界が猛反発しても不思議ではない。サウジは米の友人ではないのか。オバマ大統領はイランの脅威を理解しないのか。米英は特別な関係ではなかったか。米は同盟国に内政干渉するのか云々。


 そのオバマ大統領が先週サウジアラビア、英国、ドイツを歴訪した。メルケル独首相は「オバマ大統領が尊敬する数少ない首脳の一人」だが、携帯電話盗聴問題などもあり米独関係も決して良好ではない。本外遊はオバマ大統領にとって茨の道だっただろう。

 オバマ外交とは一体何だったのか。冒頭ご紹介した米誌の関係記事に戻ろう。英文で70ページある長文を機上で一気に読み終えた。オバマ大統領の中東政策を知る上では必読文書だろう。筆者なりに要約すればオバマ大統領は...。


 ●人類の進歩・普遍的価値については楽観主義者だが、

 ●決して理想主義者でなく、むしろ現実主義的であり、

 ●伝統的米外交主流派を信用しない点で部外者的であり、

 ●特に、伝統的な同盟国ですら当然視することはなく、

 ●米国の国力の限界については一貫して運命論者であり、

 ●米国の安全に脅威がない限り武力行使には消極的で、

 ●その他の脅威には国連・同盟国の責任分担を重視する等の点で、これまでのどの大統領とも異なっている。


 だからこそ、オバマ大統領は同盟国サウジよりもイランを楽観視し、負担とリスクを共有しない英首相よりも独首相を尊敬する。米国の脅威となるイスラム国とは特殊部隊等(など)で戦うが、脅威と考えないシリアへの軍事介入は可能な限り回避する。

 当然、中東よりも気候温暖化やキューバに関心が高くなる。この大統領は欧州にロマンを感じず、中東でのもめ事は回避し、アジアに米国の将来を見ようとする。これでは欧州や中東の同盟国は勿論のこと、伝統的外交政策を重視するオバマ政権側近たちにとっても、この大統領の外交には一定の限界がある。

 幸か不幸か、件の記事に日本・中国への詳しい言及はない。アジア外交につき、大統領は「失敗し弱体化する」中国を最も懸念するようだが、そこにもオバマ大統領特有の楽観的外交論が見え隠れする。日本だけでなく、アジアの他の同盟国がオバマ政権の煮え切らない姿勢に戦略的な懸念を抱くのも当然だろう。

 しかし、これが米国民主主義であり、オバマ流のアジア重視政策がいつまで続くかも未知数だ。今予備選では大衆迎合的ナショナリズムが吹き荒れ、来年には新大統領が就任する。誰が勝つにせよ、その人物の外交は今の米国の民意を反映することになる。日本は米国内政の動向をしっかり分析し、米国外交の激変に十分備えておく必要がある。

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