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2015.03.12

イランの核は北朝鮮の核

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2015年3月12日)に掲載

  • 宮家 邦彦
  • 研究主幹
    宮家 邦彦
  • [研究分野]
    外交・安全保障

 イラン核開発疑惑をめぐり米国とイスラエルの関係がギクシャクしている。ネタニヤフ首相が共和党の米下院議長招待に応じ議会演説を行ったのは3日。オバマ大統領は強く反発し同首相との首脳会談を拒否。米外交をフォローして40年、これほど険悪な両国関係は過去に記憶がない。

 今回オバマ政権が問題視したのはネタニヤフ首相のやり方である。総選挙直前のイスラエル首相と米共和党保守派が連携しオバマ政権主導の対イラン交渉を潰そうとしたのだから。こんな荒芸を平然とやってのける同盟国の首脳は恐らくネタニヤフ首相ぐらいだろう。だが、問題の本質は米イスラエル関係の悪化ではない。それは国際社会がイラン核兵器保有をいかに阻止するか、阻止できない場合、次善の策として何をすべきかであるはずだ。ここで改めて「P5+1(安保理常任理事国と独)」とイランとの交渉を振り返ろう。

 発端は2002年にイラン秘密核開発計画が暴露されたことだ。イランは安保理決議やIAEA(国際原子力機関)の査察要求を無視しウラン濃縮を続けた。06年、安保理が対イラン制裁決議を採択、経済制裁は徐々に強化され、内容は資産凍結、金融取引・原油取引の停止などに及んだ。

 一方、P5+1はイランと交渉を開始し、13年には「第1段階」措置で合意。イランは濃縮度20%のウラン製造を停止しプルトニウム生産可能な重水炉建設を中断することになった。その後交渉は進展せず昨年11月には交渉期限を延長。今年6月末までの「最終合意」を目指し、その骨格となる「枠組み合意」を3月末までに結ぶとしている。

 米国の本音はこうだ。
 ●核兵器製造は1940年代の技術であり、これを既に習得した今のイランに核関連施設を完全放棄させることは事実上不可能である。

 ●現在可能なことはイランにウラン濃縮能力を低下させること等により、核兵器製造期間を数週間ではなく、1年程度にとどめることぐらいだ。

 ●イラン核兵器製造までに1年程度猶予があれば、計画を発見し、外交的圧力をかけ、必要ならこれを軍事攻撃で破壊するのに十分な期間である。

 イスラエルはこうした米国のナイーブさを疑問視する。問題となった米議会演説でネタニヤフ首相は現在協議中の合意案を「核開発を阻止できない悪い取引で、ない方がよい」とまで言い切った。どっちもどっちに聞こえるが、両国の相違は究極的に「イランを信用するか否か」という命題に帰結する。

 核疑惑に関する「信用」と「枠組み合意」といえば日本にも苦い経験がある。94年、北朝鮮の核開発疑惑に関し、米朝両国が「枠組み合意」に調印した。北朝鮮が黒鉛減速炉の建設・運転を凍結し、代わりに米国が軽水炉建設を支援、完成まで年間50万トンの重油を供給するという、あの悪名高い合意だ。当時米国のクリントン政権関係者は「時は日米韓に有利であり、北朝鮮の軍事力はピークを過ぎた」としてこの合意を正当化していた。結果はどうなったか。案の定、対北朝鮮融和策は失敗し、北朝鮮は長距離ミサイルの開発と核実験を強行したではないか。

 今回の枠組み合意はどうか。イランに原子力平和利用の権利を認め、少なくとも10年間の遠心分離機削減などの見返りに、対イラン制裁の一部を解除するというが、これには核施設の抜き打ち査察など厳しい条件が最低限必要だ。2002年以降、北朝鮮はその種の厳しい査察を受け入れたのか。問題は中東における核兵器拡散の危険だけではない。最大の悪夢はイランのミサイル技術と北朝鮮の核弾頭技術の合体だ。イラン核問題はP5+1だけの問題ではない。これは北朝鮮の核問題、すなわち日本自身の問題でもある。

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