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2014.08.29

友でも敵でもない日中関係

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2014年8月28日)に掲載

  • 宮家 邦彦
  • 研究主幹
    宮家 邦彦
  • [研究分野]
    外交・安全保障

 この原稿は夜明け前の北京で書いている。中国社会科学院主催の「日本の戦略的趨勢(すうせい)と日中関係」と題する論壇(フォーラム)に招かれたからだ。東京からの参加者は著名学者ばかり。どうしようか、と考えたが、せっかくの機会なので顔を出すことにした。日中間の議論は予想通り平行線だったが、雰囲気は決して悪くなかった。ここでは筆者自身の発言のみをご紹介したい。

 8時間もの会合で発言の機会は2回あった。1回目は日中関係についてこう述べた。

 ◆日本と中国の戦略的関係を「日中関係」なる小さなプリズムだけで見てはならない。グローバル・普遍的価値の観点から見れば、現在の日中関係は米中間の矛盾の重要な一局面でもある。

 ◆安倍晋三首相の外交政策の基礎は既に民主党時代から始まり、今や国内のコンセンサスと国外の多国間ネットワークに支えられている。中国側は安倍首相を目の敵にするが、同首相が交代すれば日本の長期的政策が変わると考えるのは大きな誤りだ。

 ◆米国と直接話せば日米を離反させられるとか、現状は力によって変更できるなどと考えるのも誤りであり、かかる中国の姿勢は日本の一般庶民をますます反中にするだけだ。

 2回目は「戦略的互恵関係」について次の通り述べた。

 ◆41年前、自分は日中友好の将来を信じて中国語学習を始めたが、今や日中関係は不可逆的に変わってしまった。

 ◆「戦略的互恵関係」成功の秘訣はその戦略的曖昧さにあった。これを詳しく再定義しようとすれば逆に日中間の矛盾が露呈するだけだろう。

 ◆中国は2006年の「戦略的互恵関係」に、領土問題存在確認と靖国参拝自粛明言という2つの条件を追加した。これらはいずれもノン・スターターであり、日本の首相が誰であれ、受け入れることはない。

 ◆今考え得る日中の最も良好な関係は中国のいう米中「新型大国関係」と同様、相互に「友ではないが、敵でもない」「平和ではないが、戦争はしない」それなりに安定した関係を維持できることである。

 ◆こうした新たな日中関係を作り上げるには、戦略的互恵関係の本質である「戦略的曖昧さ」に今一度立ち戻る必要がある。

 ◆そのためには日中双方の首脳が必要に応じて政治決断をする必要があるが、中国側にその準備はできているのだろうか。

 以上に対する中国側の反応は今ひとつ良く分からない。学術フォーラムとはいえ、中国式論壇だから、反論・再反論の機会がないからだ。それにしても、大の大人がいずれも判で押したように、尖閣・靖国・右傾化に関しほぼ同一の批判を繰り返す姿は滑稽ですらあった。この傾向は年配の日本専門家ほど強い、と若い中国の学者が耳打ちしてくれた。なるほど、日本側と同様、中国側でも世代交代は確実に進んでいるようだ。

 しかも一部の良識ある中国側識者たちは、公式プロパガンダではなく、中身が濃く傾聴に値する「個人的意見」を堂々と開陳していた。彼らの勇気と信念には大いに勇気付けられる。こうした若い世代の有識者が中国国内で増殖していくことを祈るばかりだ。

 安倍政権誕生から20カ月、日中両国関係を取り巻く現実は予想通り厳しい。しかし、中国側の「中日問題専門家」以外にも両国関係をこのまま放置できないと考えているらしい人々が北京にいることは救いだ。他方、中国側で関係改善の決断を下せるのは最高政治レベルだけであり、それには中国内政の安定が不可欠だろう。秋のAPEC首脳会議に向けて日中双方、特に中国側が戦略的互恵関係の「戦略的曖昧さ」の価値を再発見することを強く期待したい。

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