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2014.07.28

(安全保障を考える)日本のこれから-中国との対話、扉のその先へ-

朝日新聞に掲載(2014年7月2日付)

  • 神保 謙
  • 主任研究員
    神保 謙
  • [研究分野]
    外交・安全保障

 今回の閣議決定のリアルな意義は、三つあると考えています。

 第一は年末をめどに改定をめざす新しい「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)に向けた基盤整備です。朝鮮半島有事をにらんだ日米防衛協力の強化は1990年代からの懸案でしたが、現在は中国の軍事的台頭を牽制(けんせい)する意味合いが強くなりました。

 集団的自衛権が行使できれば、平時に日本周辺でおこなう日米共同の警戒監視活動の幅が広がる。戦争や武力攻撃を受ける手前のグレーゾーン事態(準有事)にも日米協力を背景に間断なく備えられます。米財政の悪化と他国への「介入疲れ」に苦しむ米国の負担を減らす面でも意味があります。

 第二は国際協力での日本の役割の向上です。国連平和維持活動(PKO)は伝統的な平和維持という静的役割から、部隊装備の強化と強い権限を持った積極的PKOへと多様化している。停戦合意の成立など自衛隊の派遣基準となるPKO参加5原則に基づく現行法はもはや現状に合わない。PKOは多国間のチーム活動だけに、国際標準に日本が合わせなければ活動が円滑に進みません。集団安全保障の議論に関連して、自衛隊員と離れた所にいる人が襲われた場合に隊員が武器を持って駆け付ける「駆けつけ警護」で武器使用を認めることは、日本が国際標準に近づく一歩になります。

 第三はグレーゾーン事態への具体的な対応です。今回は運用の改善にとどまるので物足りないのですが、日本の領土防衛にからみ、武力攻撃には至らないが警察権では対処できない事態へのリスクが高まっている。自衛隊法と海上保安庁法の隙間を埋める法的基盤整備は依然、必要です。


<外交にはプラス>

 日本外交にとってはプラスが多い。米国は集団的自衛権の行使容認を「歓迎し支持する」との立場を表明しており、日米は良好な関係が続くでしょう。一方、中国からの批判は避けられませんが、日中関係の基本的構図は変わらない。中国は尖閣問題や歴史認識で反日キャンペーンを展開し、日米離間策として米国を取り込もうとしました。しかし、集団的自衛権の行使容認は日米同盟を強化することになり、中国が批判するほど日米は結束する。結局、中国は静観せざるを得ないでしょう。


<仲間を取り込め>

 むしろ外交で私が心配するのはこれからの日本の姿勢です。

 安倍晋三首相は国家安全保障会議(日本版NSC)の設立、武器輸出の新原則決定、防衛費の増額など、日本が抱えてきた安全保障上の課題を着実に進め、集団的自衛権の行使にも道を開いた。

 昨年末の靖国参拝以後は、「歴史修正主義者」と受け取られかねない行動を慎み、日米関係を安定化させようとしてきました。首相が本来もつ保守主義の側面を抑制し、リアリストに徹した自省的な姿勢を貫くことができるかがポイントです。首相が持つ保守の側面が再び強まり、それが外交に影響するようだと、リアリストの評価が反転する恐れがあります。

 日米関係を固めたいま、私が期待するのは、国際的なパワーバランスの変化にそったリアルな外交・安保政策です。世界で台頭するのは中国だけではない。インド、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国、オーストラリア、ロシアなど、世界で様々な国が力をつけています。そうした国々と関係を築き、仲間に取り込むのです。

 その際、留意するべきは、単純な中国包囲網にしないことです。こうした国々の多くは中国と経済関係があり、日本か中国かという二者択一を迫るのは無理。中国と関係を発展させつつ、「中国のこの部分は許せない」という共通点を見つけるというような「ニュアンスのある戦略的な協調関係」が大切です。それは中国を平和外交に引き込む戦略でもあります。

 安倍首相には中国と対立する外交ではなく、中国と向き合ってほしい。「対話のドアは常にオープンだ」と言うだけではなく、自らドアを出てはどうでしょう。東シナ海上で不測の事態に備える「海上連絡メカニズム」の構築など、日中の危機管理体制は喫緊の課題です。世界が望むのは、何より日中関係の安定なのです。

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