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2014.06.27

オバマ大統領のアジア訪問、垣間見える米外交の限界-「満額回答」の背景にあるもの-

WEDGE Infinity に掲載(2014年5月8日付)

  • 辰巳 由紀
  • 主任研究員
    辰巳 由紀
  • [研究分野]
    外交・安全保障

 4月29日、オバマ大統領は1週間で日本、韓国、マレーシア、フィリピンの4カ国を訪問する歴訪を終えた。北東アジアと東南アジアでそれぞれ2カ国ずつ訪問し、かつ、中国を素通りする日程は、米国のアジア太平洋地域へのリバランス(再調整)を改めて同盟国・友好国との間で確認し、「(アジア・太平洋)地域における規則に基づいた秩序に対するコミットメントの再確認」(スーザン・ライス米国家安全保障担当大統領補佐官)を目的としたものだった。


◆安保問題での「満額回答」に喜ぶ日本だが...

 特に日本では、オバマ大統領の今回の訪日は米国大統領として18年ぶりの国賓としての訪問であることもあり、日本のメディアでは大層、注目された。4月23日に日本に到着し、25日には韓国に向かって出発するという駆け足の日程ではあったが、オバマ大統領は、安倍総理との日米首脳会談のほか、到着当日の安倍総理との、ドキュメンタリー映画も作られているミシュラン・ガイドから三ツ星を獲得した海外でも有名な「すきやばし次郎」での夕食会、24日夜の天皇陛下主催晩さん会、科学未来館訪問など、ビッシリのスケジュールをこなし、日本滞在中はオバマ訪日関連ニュースが新聞紙上を埋めた。

 特に、読売新聞の紙面インタビューに応じ、その中で尖閣諸島は「日本の施政下にある」として日米安全保障条約第5条に基づく米国の防衛義務の対象に含まれることを明言し、日米首脳会談後の共同記者会見でも「繰り返しになるが、日本の安全保障に対する我が国の条約上のコミットメントは絶対(absolute)であり、(安全保障条約の)第5条は日本の施政下にあるすべての領域を含むもので、尖閣諸島も右に含まれる」と述べるなど、尖閣諸島問題をめぐる米国の対応が「煮え切らない」という日本国内の雰囲気にことさらの配慮を見せた。

 集団的自衛権行使をめぐる解釈変更を含む、安倍政権の安全保障政策についても、前述の紙面インタビューで、「我々は国際安全保障を維持するためにより大きな役割を果たしたいという日本の願いを熱烈に歓迎している」「安倍総理の努力を称賛する」など、非常に前向きで、環太平洋パートナーシップ(TPP)参加をめぐる日米間の正式発表に至らなかった経済・通商問題とは対照的に、安保問題については「満額回答」に近い成果を得た、というのが日本から伝わってくる雰囲気だ。


◆米国内の関心はウクライナ情勢

 しかし、米国では、訪日の部分だけでなくオバマ大統領のアジア訪問自体が、それほど高い関心を集めていなかった。安倍総理との共同記者会見を含め、訪問中にオバマ大統領が行った記者会見で米国から同行した記者団からは必ずウクライナ情勢に関する質問が出たことに象徴されるように、アジア訪問期間中も、外交ニュースの大半はウクライナ情勢に紙面が割かれていた。アジア訪問に関心が向けられるときは、TPPへの日本参加をめぐる合意が成立しなかったことや、3つ目の訪問先のマレーシアで、反政府勢力のリーダーであるアンワール氏にオバマ大統領が面会しないこと、などオバマ大統領の訪問で「達成されなかったこと」に焦点があたった報道が主流を占めた。唯一の例外は、最終訪問地のフィリピンで、米軍のローテーション配備を含む10年間の安全保障協定が結ばれたことぐらいだ。

 これは今のオバマ政権が置かれている状況をよく反映している。現在のオバマ政権は、国内的には中間選挙に向け非常に厳しい戦いを強いられることが予想されている。アジア訪問直後の4月29日に発表されたワシントン・ポスト紙とABCニュースの共同世論調査によれば、オバマ大統領の支持率は、政権発足後最低の41%を記録した。TPPの早期妥結に欠かせない通商促進権限(Trade Promotion Authority, TPA)(米国が他国と交渉した通商に関する条約を批准する段階で米上院が修正条項や留保を付けることを認めない権限。「ファスト・トラック権限」とも呼ばれる)が中間選挙前に議会で成立する確率もほぼ皆無だ。

 外交問題でも、昨年のシリア情勢への対応に始まり、中国による東シナ海上空の防空識別圏設定、さらに今年になってからは3月に発生したロシアの武力によるクリミア併合以降続くウクライナ情勢の緊迫、と米国の外交力が落ちていることを印象付ける事案が続いている。つまり、内政でも外交でも、手詰まり感が続いているのが今のオバマ政権なのだ。

 このような状態では、自ら何か大きな政策構想をぶち上げて、その実現に向かって進む、というよりも、個別の事案にきちんと応対していくことで失点や自殺点を出さないようにする、いわゆる「受け身」の対応になりがちだ。

 実は、今回のアジア訪問は、オバマ大統領にとっては外交政策で後手の対応が続いているというイメージを覆す絶好のチャンスだった。オバマ大統領が「アジア太平洋地域への米国の戦略的リバランス(再調整)」について、アジア太平洋地域を訪問中に自分の言葉で語ったのは2011年11月のオーストラリア訪問が最後だ。つまり、政権二期目に入ってから、オバマ大統領が日本を含めたアジア太平洋地域諸国に対して「第二期オバマ政権にとってはアジア太平洋への戦略的リバランスとは何ぞや」を大統領からのメッセージとしては、未だに発することができていないのである。

 オバマ政権第一期目を境にクリントン国務長官やキャンベル東アジア太平洋担当国務次官補といった、米国のアジア太平洋戦略的リバランスの『顔』がいなくなってしまったと囁かれ始めてから1年以上が経過した。昨年は、連邦予算を巡る議会との交渉の膠着という「お家の事情」でAPEC首脳会談出席を直前になってキャンセルせざるを得なくなり、「第二期オバマ政権は、アジア太平洋への戦略的リバランスを真面目にやる気があるのか」と国内外で議論が起こった。その意味で、北東アジア2カ国、東南アジア2カ国と、訪問先のバランスもよい今回の歴訪は、第二期オバマ政権が描く「アジア太平洋への戦略的リバランス」のビジョンを示す格好の機会だったのだ。

 しかし、ふたを開けてみると、オバマ大統領は訪問した4カ国すべてで、米国と訪問先の国が抱える2国間上の懸案への対応に終始した。韓国でも、マレーシアでも、フィリピンでも、訪日の際に安倍政権に見せた配慮と同じように、それぞれの国が抱える「お国の事情」への配慮を見せている。つまり、今回のオバマ大統領によるアジア歴訪からは、大きなビジョンでリーダーシップを発揮することが難しくなり、今、そこにある課題に堅実に対応することで次に繋げていくしかない状況の米外交の限界が垣間見えてくるのである。


◆今まで以上に求められる責任分担 「21世紀型グアム・ドクトリン」

 ということは、日本は尖閣諸島問題について「満額回答」を引き出した、と喜んでいる場合ではないことになる。そもそも、オバマ大統領自身も共同記者会見の席上で言及しているように、オバマ大統領が述べた見解は、米国歴代の政権の公式見解で、特に新しい内容のものではない。大統領より一足先に3月にアジア歴訪の最初に日本を訪問したヘーゲル国防長官も、まったく同じ発言をしている。「米国大統領が公の場で言ったことに意味がある」という議論もあるとは思うが、このことだけをことさらに取りあげて「米国は一歩踏み込んで日本の側についた」と考えるべきではない。むしろ、オバマ大統領による発言は、中国に対するメッセージ効果を狙ったものだという見方もできる。

 もちろん、米国との関係は日本外交の要諦だ。厳しい状態に置かれているとはいえ、オバマ大統領が2016年まで大統領の職にあり続けることは変わりない。その意味で、今回の訪日で、昨年12月の安倍総理による靖国神社参拝以降、ギクシャクした雰囲気が漂っていた日米間の雰囲気が大幅に改善されたことは、訪日の重要な成果であることに変わりはない。

 しかし、今年11月に中間選挙を控え、次の大統領選挙が2016年に迫る中、米国の内向き傾向が進み、オバマ政権は余裕を失っていくだろう。その中でアジア太平洋地域に対しては、「戦略的リバランス」という名の外交上のコミットメントを強調しつつも、同盟国・友好国にも今まで以上の責任分担を求める、「21世紀型グアム・ドクトリン」的側面がさらに強く出てくることが予想される。日本の主体的判断が試される時期がしばらく続くことになるのではないだろうか。


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