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2014.05.23

イスラエルと集団的自衛権

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2014年5月22日)に掲載

  • 宮家 邦彦
  • 研究主幹
    宮家 邦彦
  • [研究分野]
    外交・安全保障

 先週は興味深い1週間だった。前半はイスラエルのネタニヤフ首相が訪日した。一部専門家は注目したが、一般国民の関心は今ひとつだった。一方、同首相の帰国翌日には安倍晋三首相が集団的自衛権の憲法解釈変更に向け記者会見を行った。この2つのニュース、一見無関係にも思えるが、筆者の頭の中では一本の線で繋がっている。

 まずは日・イスラエル関係だが、両国には不幸な過去がある。1973年、第三国の政治的圧力で両国関係が事実上凍結されたからだ。当時は第1次オイルショック、アラブ産油国は「イスラエル支持国」に対し石油禁輸を発動した。当時日本の政治家に中東情勢を理解する者がいなかったのか、結果的に日本政府は外交判断を誤ってしまう。

 同年11月、官房長官は「今後の諸情勢の推移如何によってはイスラエルに対する政策を再検討せざるを得ない」とする談話を発表、イスラエルとの交流を事実上停止したからだ。しかし、当時同様の危機に直面した欧米諸国の多くは圧力に屈しなかった。中東を熟知する彼らはイスラエルとの関係を維持したのだ。

 それから15年もの間、日・イスラエル関係は停滞する。石油危機後初めて日本の外相がイスラエルを訪れたのは88年のことだ。日本の一部、特に経済界を中心に対アラブ配慮を優先する声が強かったことも一因だろう。アラブ諸国との友好は当然だが、だからといって対イスラエル関係を犠牲にする必要などない。

 石油危機から約40年、ネタニヤフ首相訪日は日本の安全保障にとって極めて重要な意味がある。中でも筆者が注目したのは今回両国が発表した共同声明の次のくだりだ。

 ●双方は日本の国家安全保障局とイスラエルの国家安全保障会議間の意見交換の開始を歓迎し、イスラエルで次回会合を実施することを確認。

 ●同、サイバーセキュリティーに関する協力の必要性を確認し、両国の関係機関間の対話への期待を表明。

 ●同、両国の防衛協力の重要性を確認し、閣僚級を含む両国の防衛当局間の交流拡大および自衛隊幹部のイスラエル訪問で一致。

 ●同、産業分野の共同研究開発(R&D)を促進すべく、可能な協力を追求するための一層の努力を確認。

 ●同、先進科学技術やイノベーションの分野での協力推進の決意を確認し、両国の宇宙関連機関間の交流を促していく意向を共有。

 要するに、両国首脳レベルで安全保障対話が行われ、防衛分野で閣僚級対話が始まり、サイバー・宇宙を含む最先端技術の分野でも官・民ともに協力推進のための本格的な意見交換が行われるということ。いずれも日本の抑止力向上に資するだろう。73年以来の両国関係を知る者にとっては隔世の感がある。

 集団的自衛権については前々回に触れたので、ここでは繰り返さない。だが、自衛権といえばイスラエルにとっては国家存亡にかかる大問題。されば同国の生き様は日本の安全保障を考える上でも大いに参考になるだろう。

 イスラエルは建国以来、周囲のアラブ諸国と戦争・戦闘を繰り返してきた。イスラエルの行動には批判もあるが、アラブ側が一致団結して集団的自衛権を行使すれば、いくらイスラエルでも勝ち目はない。だが、今やアラブの分裂は目を覆うばかり、イスラエルに攻撃されたガザのパレスチナ人のために戦おうとするアラブ国家はない。要するに、アラブが集団的自衛権を行使しないからこそ、イスラエルの安全が保たれているといっても過言ではない。

 ある識者は集団的自衛権を「他国へのけんかを買う」権利と断じていたが、それは違う。「他国への攻撃」に対し助っ人が必ずやってくるからこそ、無謀な攻撃が抑止されるのだ。イスラエルの歴史は正にそのことを示している。

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