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2013.11.06

サウジアラビアの憂鬱―世界が驚いた国連安保理ポスト突然の辞退

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2013年10月31日)に掲載

  • 宮家 邦彦
  • 研究主幹
    宮家 邦彦
  • [研究分野]
    外交・安全保障

 今月18日、サウジアラビアのリヤドから驚くべきニュースが飛び込んできた。サウジ外務省が、前日の国連総会で選出されたばかりの安保理非常任理事国ポストを辞退すると突然発表したのだ。

 国連安保理の非常任理事国といえば、日本ではこの上なく貴重なポストではないか。せっかく当選したのに、これを返上するなんて、通常ならまずあり得ない。確かに、これまでサウジアラビアは国連安保理に無関心だった。だが、今回は伝統的方針を変更し、安保理多国間外交に乗り出した矢先の大事件だった。サウジ外務省の関係部局は既に当選を祝賀するメッセージを発表していたそうだから、現場の外交官にとっても寝耳に水だったに違いない。

 サウジ外務省の声明は、国連安保理がシリア内戦やパレスチナ問題などに二重基準を用いていると批判する一方、世界が見て見ぬふりをして有効な制裁を科さないまま、シリア現体制による化学兵器を用いた市民の殺害を許すことは、安保理にその義務と責任を果たす能力がないことを明確に示している、などと断じている。さらに、サウジアラビアの要人は、シリアの化学兵器を国際的にコントロールしているなんて茶番だ、と息巻いているそうだ。しかし、よく考えてみてほしい。これら一連の声明・発言を読めば読むほど、何を言いたいのか分からなくなる。

 まず、安保理のダブルスタンダードだが、これはシリアに始まった話ではない。そんな安保理がけしからんというなら、そもそもなぜ立候補したのか。第2に、安保理がその義務と責任を果たせないことも、別に目新しいことではない。真の原因はロシア、中国、米国など常任理事国の拒否権ではないか。最後にシリア化学兵器の管理だが、処理が難しいのは当たり前の話、安保理の問題ではない。要するに、サウジアラビアが公式・非公式に発表している理由はいずれも非常任理事国ポスト返上の理屈としてはどうも弱い。というか、そもそも理由にすらなっていないのだ。

 今回の決定はアブドラ国王自身の決定だったといわれる。確かにその通りだろう。しかし、これはサウド家王族たちの気まぐれなどでは断じてない。恐らく同決定は彼らが8月下旬以降、熟慮に熟慮を重ねた結果であったと思われる。理由は次の通りだ。

 ●立候補から当選までの経緯にかんがみれば、当選を返上するという前代未聞の決定がサウジアラビアの国益をいかに害するかは明らかだ。余程の理由があるとしか思えない。
 ●今年の国連総会の際、サウジ外相は総会演説を直前にキャンセルしたというが、これはサウジアラビアの怒りが既に本年9月の段階で高まっていたことを示している。
 ●サウジアラビアの決定が最近の米国の中東外交に対する不満・抗議である可能性は高いが、仮にそうだとしても、サウジにとって最も重要な同盟国を批判することには大きなリスクを伴うはずだ。

 サウド家王族はイスラム教2大聖地の守護者である誇り高いアラブ人たちだ。彼らが前代未聞の行為に踏み切ったのは、何らかの理由でサウジアラビアのメンツを潰されたと感じたからに違いない。

 例えば、サウジアラビアが口を酸っぱくしてイランとの関係改善に慎重であるよう求めたのに対しオバマ政権がそれを無視したか、それともシリア問題の解決策をめぐり米サウジ間に深刻な対立が生じたのか。真相は不明だが、ひとつだけ、サウジアラビア人が口が裂けても言えない理由が考えられる。

 それはオバマ外交の「不介入主義」に対するサウジの深い懸念と将来への不安であり戦略が定まらず右往左往するオバマ政権への不信感でもある。エジプト政変、シリア化学兵器などをめぐる一連の騒動の根源は同一だ。この点日本も決して傍観者ではない。


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