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2013.08.28

日中は戦略的互恵関係に戻れ

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2013年8月22日)に掲載

  • 宮家 邦彦
  • 研究主幹
    宮家 邦彦
  • [研究分野]
    外交・安全保障

 今回の原稿は8月15日に北京で書いている。半年ぶりの中国北部は、予想に反し、酷暑の東京よりいくらか涼しく、大気汚染指数もそれほどひどくはなかった。日中関係も似たようなものだ。8月中旬に予定されていた複数の日中シンポジウムは「種々の原因でやむなく」延期された。一方、事前の予想に反し、中国各界の友人たちの多くは今回筆者との個人的接触を躊躇することはなかった。

 15日の靖国参拝に対し中国政府・メディアが対日批判を続けたことは予想通りだった。一方、そうした中でも、中国側には日本の出方を注意深く見守ろうとする姿勢も見え隠れする。もちろん、中国側が日本との関係改善を切望しているなどと思うほどナイーブではない。それでも、対日関係を改善できないことは中国にとっても利益ではない、その理解は半年前よりも深まっているように感じた。

 中国側の最大の障害はやはり内政上の配慮だろう。

 ●昨年11月に発足した習近平・李克強体制は経済成長、不正腐敗、不良債権、党内融和などの内政問題に文字通り忙殺されている。
 ●新指導部は今も離陸中であり、彼らが巡航高度に達するにはまだ相当時間がかかる。
 ●対日関係はもちろん、対外関係全般を改善しようとすれば、党内外から弱腰と批判されかねず、今はとても国際協調を進める状況にない。

 今回北京ではこうした声を各方面から聞かされた。恐らくこれが現実なのだろう。

 しかし、この種の議論を額面どおり受け取ることはできない。例えば、中国の地方政府の多くは経済発展のために日本の投資家・企業との協力を望んでいる。こうした声が対日関係改善を後押ししない最大の理由は、常に経済よりも政治が優先する中国側のシステムそのものにも問題があるからではないのか。

 内政上の反発から国際協調が進まないというが、そのような国内事情を作ったのも、対外強硬論をあおりすぎて制御不能にしてしまったのも、中国自身ではなかったのか。

 昨年12月の安倍晋三内閣発足以来の日中関係を冷静に振り返ってみると、現在の関係悪化の多くの原因は昨年末までに起きたことであることが分かる。尖閣をめぐる対立は民主党政権下で始まったことだし、歴史問題についても安倍首相の姿勢は2006~07年当時と基本的に変わっていない。そうであれば、そろそろ中国側も新たに日中2国間関係の再構築を考える時期に来ているのではないか。

 本年6月の米中首脳会談で習近平国家主席は、中国の対外関係は「衝突せず、対抗せず」「相互尊重」「協力とウィンウィン」であるべきだと述べたそうだ。大変結構な話である。日中間でもそうしようではないか。

 日中関係を改善して日本の対中投資・技術移転を進めることは「ウィンウィン」だ。日中間で歴史問題を再燃させないことは「相互尊重」の始まりであろう。さらに、尖閣をめぐり誤解や誤算に基づく日中間の不必要な摩擦・対決を回避するための新たなルールを作ることこそ、「衝突せず、対抗せず」の精神を具現するものである。

 こう考えてくると、議論はおのずから2006年に日中間で合意した「戦略的互恵関係」に戻ってくる。安倍政権の1期目には直前の小泉政権の5年間を総括した。2期目の今回も、民主党政権の3年半を踏まえ、新たな日中関係の扉を開くべきではないか。

 その際の日中共通のキーワードは戦略的互恵関係しかない。1970年代の日中友好の精神を踏まえつつ、21世紀の新たな2国間関係を切り開いていくためには、中国側にも戦略的互恵思考を持ってもらいたい。安倍首相が政治決断を下すのはそれが具体化するときである。


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