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2013.08.12

海外邦人保護演習の教訓

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2013年8月8日)に掲載

  • 宮家 邦彦
  • 研究主幹
    宮家 邦彦
  • [研究分野]
    外交・安全保障

 先週末キヤノングローバル戦略研究所が政策シミュレーションを実施した。

 テーマは1月のアルジェリア人質事件と同様のテロ事件。あの悲劇を二度と繰り返さないための知的な「官民協力」の一環だ。

 西アフリカの架空の国家で日仏等合弁企業の建設するプラントが襲われるという想定。政策シミュレーションは14回目だが、これほどリアルな結果は初めてだ。

 政府高官、現役国会議員・官僚、企業関係者、ジャーナリストなど裏方を含め参加者は90人を超えた。首相官邸から関係企業、テロリストまで参加者全員が与えられた役割を全うしてくれた。

 今回も多くの貴重な教訓が得られた。詳しい報告書は現在作成中だが、本稿ではその一部を筆者の責任で思いつくままご紹介したい。

 ●今回の事件でも最後には関係国による人質奪還作戦が敢行された。周到な準備により作戦は成功したが、日本政府は一貫して「人命最優先」を唱え続けた。もちろん、それ自体間違いではない。

 しかし、国家には「人命」に加えて安全保障上の国益や資源エネルギー戦略など重要な利益が多々ある。

 今回気になったのは、政府首脳が「人命最優先」を語った途端、人命以外の諸利益に関する「思考停止」が始まるというパラドックスだった。

 「人命最優先」、内容があまりにも当然であるだけに、逆に恐ろしい言葉だと痛感した。

 ●今回は架空の危機管理専門の国際的警備会社をつくり、実際の専門家にプラントでの警備計画作成を依頼した。

 その際分かったことは、危機管理とは単なる「技術・ノウハウ」のみではなく、それ自体が政治であるという現実だ。

 いかに完璧に見える計画を作っても、必ず想定外のことが起きる。その際にモノを言うのは、関係者、国民がそうした政府や企業の対応をいかに見るかという視点だろう。

 企業側から見れば、このような危機に際し、日本政府、外国政府をいかに動かすか、事実をいかに公表するかが最も重要となる。この作業自体が既に「政治」であるというのが今回の教訓だった。

 ●襲撃されたプラントは日仏などによる合弁企業だった。多国間協力といえば聞こえは良いが、いざ警備計画となると自国のエゴが表面化する。日本企業側は仏などに警備力増強支援を要請するが、結局は断られてしまう。

 やはり、自社員・自国民は自社・自国で守るしかない。今回他国の支援は簡単には得られないという当たり前の事実を改めて思い知った。

 ●今回の目玉は「たすきがけ」人事だった。可能な限り、現職の官僚には実業界のポストを、実業界のビジネスパーソンには政府のポストを用意した。それぞれの組織が独自のロジックで動いていることを肌で感じてほしかったからだ。

 どの程度成功したかは分からない。しかし、実業界からの参加者のひとりから、「いつもは政府に窓口の一元化を要望してきたが、実際に政府に入るとそれが簡単でないことが良く分かった」という正直な感想を聞けた。これだけでも実施したかいがある。

 ●今回主要プレーヤーには相反する情報を個別に入れた。案の定、情報は大いに錯綜した。

 その中で気になったのが「官民情報共有」の難しさだ。貴重な情報を他と共有することには今も本能的な危険を感ずるのだろうか。

 やはり政府と実業界の橋渡しをする両生類のような政治任用職が政府には必要だ。官民情報共有は今も大きな課題である。

 最後に、このシミュレーションに参加頂いた各方面の関係者の方々に、心からお礼を申し上げたい。


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