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2013.07.19

エジプトは「クーデター」か

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2013年7月11日)に掲載

  • 宮家 邦彦
  • 研究主幹
    宮家 邦彦
  • [研究分野]
    外交・安全保障

 懸念された政変が起きてしまった。エジプト軍部が事実上のクーデターに踏み切り、1年前の民主的選挙で勝利したモルシー政権はあっけなく崩壊した。

 34年前、筆者がアラビア語研修したエジプトの春はやはり「砂嵐の短い春」だった。「アラブの春」を信じた日本の専門家たちはエジプトの現状をどう説明するのだろう。

 エジプトには軍以外の統治組織はないのだろうか。ムバラクを退陣に追い込んだ「負のエネルギー」は今回ムスリム同胞団に向かった。1年後、この破壊的エネルギーは一体どこの誰に向かうのか。こればかりは誰にも分からない。唯一明らかなことは同胞団、軍部、リベラル、いずれも政治的妥協が不得意なこと。広場で騒いでいる付和雷同の民衆がエジプトを変えるとも思えない。一体誰があの国を変えるのか、それともエジプトは変わらないのか。

 今回の政変をムスリム同胞団はクーデターと呼ぶ。一方リベラル勢力は軍部による大統領追放を擁護する。細かいようだがこの点は重要だ。

 米国法は軍事クーデターが起きた外国への援助を禁ずる。3日の声明でオバマ大統領は、モルシー大統領を解任し、憲法を停止したエジプト軍の決定を深く懸念していると述べた。

 同時にオバマ大統領は、包括的かつ透明な方法で、速やかに民主的に選ばれた政府に戻すとともに、モルシー大統領とその支持者を恣意的に逮捕しないようエジプト軍に求めた。

 さらに、今回の事態が米国の対エジプト政府支援に及ぼす法的意味を検討するよう米関係省庁に命じたが、今回の事態がクーデターか否かについては言及を避けている。

 米国の対エジプト援助は毎年15億ドル、大半が軍事援助だ。米国はカイロに民主的政府が戻るまで援助を停止すべきか。現在も米国では侃々諤々の議論が続く。「停止派」は今こそ米国が民主化のため行動すべしとオバマ政権の慎重姿勢を批判する。逆に「継続派」は今支援を打ち切ればエジプトは破綻国家となり、今後の民主化プロセスを危うくすると主張して譲らない。

 先日この問題で米国人と激論になった。慎重なオバマ政権は対エジプト援助を停止しないと思うが、個人的にはエジプト軍にもっと圧力をかけるべきだと彼は主張する。

 筆者は反論した。米国はいつもそうだ。どんな政変があっても、ワシントンは結局新たな現実を受け入れる。イラン革命も、韓国の盧武鉉政権、日本の民主党政権の場合もそうだった。米国の対応に原則などないんだ、と。

 それは違う、米国はフィリピンやチリの親米独裁政権を崩壊させたじゃないか、友人も黙っていない。いやいや、それは例外中の例外だ、と筆者。真摯(しんし)な議論は延々と続いたが、焦点は常に「エジプトに民主主義をどう定着させるか」だった。だから米国中東専門家との議論は面白い。

 それでは日本はどうだろう。
 ODA大綱は、軍事クーデターによる政府の転覆などの動きが見られた場合、その国に対する援助を見直し援助停止も含め適時適切な措置を講じるという。だが今回の日本政府の立場も米国と同様、いまひとつ煮え切らない。

 4日の外務大臣談話は「情勢が早期に安定し、エジプト政府が経済・社会面での課題克服に取り組めるよう、諸勢力が民主的な手続きの下で国民和解を進展させ真摯に協力すること」を期待する。

 日本の対エジプト経済協力は昨年までの累計で総額8千億円近い。米国には及ばないものの、決して少なくない額だ。日本はエジプト新指導部に何を望むのか。外相談話からはよく見えてこない。

 エジプトの現状を受け入れ内政の混乱を事実上放置するのか。それとも圧力でエジプトに変化を強いるのか。国際社会の対応が問われている。


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