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2013.05.13

日本の北朝鮮政策は行き詰ってしまったのか(原題: "Has Japan's DPRK Policy Reached a Dead End?")

当研究所の主任研究員である辰巳 由紀のコラム"Has Japan's DPRK Policy Reached a Dead End?"の翻訳を掲載する。 

  • 辰巳 由紀
  • 主任研究員
    辰巳 由紀
  • [研究分野]
    外交・安全保障

 北朝鮮は、2013年2月12日、地下核実験を行った。これに対して、国連安全保障理事会は、決議第2094号を全会一致で可決し、北朝鮮に対して経済・金融の追加制裁を課した。それでも、北朝鮮は、ここ数週間あまりの状況が示すように、依然として挑戦的である。朝鮮半島における緊張緩和の方法を見出そうとして国際社会が取組んでいる中、いかに北朝鮮の惹き起す安全保障上の懸念への対応に日本が影響力を行使できないかが再び思い知らされる。

 昨年12月に安倍晋三氏が日本の首相になる2度目のチャンスを得たとき、その復帰は、中国や韓国、さらには米国においてさえ、懸念をもって迎えられた。安倍氏の保守的な意見や過去の戦争に対する考え方に着目して、米国の悲観論者は、日本の新政権が中国や韓国との関係をさらに悪化させるような政策決定をするのではないかと心配した。安倍氏の米国寄りのスタンスに着目した楽観主義者は、新首相の下で日米間の対話が改善されるだろうことに勇気づけられた。外交に関して悲観的な見通しをもつか楽観的であるかに拘らず、唯一最初から明らかなのは、安倍氏の復帰によって、日本政府が再び日朝関係に重点をおくようになるだろうということである。

 民主党政権の3年間においては、日朝関係に関して、殆ど何の進展もなかった。日本が6ヶ国協議におけるその役割をどのように確立するのかということから、北朝鮮との二国間問題にどのように対処するのかということまで、あらゆる点において、民主党がその政策をじっくり検討しているという気配は殆ど感じられなかった。また、東京と平壌の関与も殆どなかった。昨年8月に野田政権が漸く北朝鮮との二国間協議を行ったが、それまでは、何か意味あることに繋げるには、「あまりにも小さ過ぎあまりにも遅過ぎる」という状態だった。

 鳩山氏、菅氏、野田氏のいずれの民主党政権のリーダーも北朝鮮問題への関心の有無が知られていなかったのに対して、安倍晋三氏の個人的な関心は非常に明らかだ。そもそも、安倍氏が国民的な政治家になったのは、小泉政権当時の内閣官房副長官としての「拉致問題」に対して示したコミットメントによってであった。また、安倍氏が日本の防衛力を強化することについて強い関心をもっていることもよく知られている。既に彼は、自衛隊の活動を制約している法的な問題に取組むこと、ここ10年以上続いている状態を逆転させて日本の防衛予算を増加すること、日本の安全保障を強化するために米国との同盟協力関係を強化することについて、その意思を明らかにしている。このことは、安倍氏が日本を好戦的な意図をもった国に変えようとしていることを意味するものではない。彼は、日本が近隣諸国を含めていかなる国によっても脅迫されるものではないというメッセージを送ろうとしているのである。

 その就任以来、安倍総理は、自らの政権が北朝鮮に対して強い姿勢をとることを示した。何よりもまず、拉致問題の優先順位が高い。安倍氏は、2013年1月25日、この問題に関する最初の政府全体会合を開催し、彼の長年の政治的同志であり、この問題への強い関心を共有する古屋圭司氏を担当国務大臣に任命した。また、1月の国会での所信表明演説では、「拉致問題の解決」が政府の外交政策の優先課題の一つであるとした。2月の米国訪問中の演説においてもこの問題に言及し、安倍政権が北朝鮮に対する制裁を決して解除しないことを強調し、「彼らが核兵器やミサイル技術の開発を断念し、拉致した全ての日本人を解放しない限り、現政権が何らかの見返りを与えることはない」と述べた[1]。さらに、北朝鮮における人権侵害を懸念する欧州連合などと協力して、国連が調査委員会を設置するのを推進したのである。

 しかし、北朝鮮に対する効果的な対応手段を見出すことは、安倍政権にとって外交政策上重要ではあるが、難しい問題でもある。第一に、日本には、北朝鮮に影響力を行使する手段がない。日本は既に、国際協調による制裁に参加し、一方的な制裁も課している。北朝鮮の最初の核実験に対して、2006年に、すべての品目に及ぶ包括的な輸入禁止を実施し、2009年の2回目の核実験で、これを完全な取引禁止に拡大した。2013年2月の核実験に対して追加制裁を行い、北朝鮮国籍者とその支持者の両国間の渡航を厳しく制限した。多国間制裁および一方的な制裁の組合せによって、日本国内の北朝鮮支持者からの資金の持出しを含めて、日朝間の取引は完全にストップしている。その結果、日本には、この隣国に対して用いるべき経済的手段はもう殆ど残っていないのである。

 日本の安全保障を強化する措置に関して、安倍政権が追加的になし得ることは、現在の法的枠組の下では殆どない。確かに、安倍総理は、北朝鮮を念頭に置いて、策源地攻撃能力[2]を含めて、日本の防衛力強化に関心を示している。しかし、これを実施するにはまず現行法の改定が必要であり、これにはかなりの時間がかかると共に、少なくとも短期的には、財政的にみて現実性がない。また、策源地攻撃能力を保持することは、ただでさえ脆弱な日韓・日中関係を複雑化する可能性があり、外交問題に発展する可能性もある。

 多くの政治的、経済的、社会的制約があるうえに、2011年3月の福島原発事故後に再び高まっている日本国民の「核アレルギー」を考えると、日本が単独で核戦力を保持することも問題外である。日本の国民感情は、北朝鮮が今後も高濃縮ウランを生産して大規模で洗練された大量破壊兵器を製造する方向に向かったとしても、変ることはないだろう。北朝鮮の挑発が続き、またミサイルに核弾頭を装備する能力を保持するという状態は、指導者も含めて大半の日本人にとっては、単に理解できない極端なシナリオとしか考えられないのではないだろうか。従って、当面、弾道ミサイル防衛への投資を続け、米国との防衛協力をさらに強化し、日米韓の三国間の安全保障協力を改善することが、安倍政権の取り得る、唯一現実的な軍事的措置であると言える。

 制裁を通じても、軍事的手段によっても、北朝鮮の行動に影響を及ぼす日本の能力は限られており、日本に残されている唯一の実行可能な手段は外交である。しかし、ここでも政府にはハンデがある。北朝鮮の挑発に対して日本が意味のある外交的な役割を果たそうとするのであれば、安倍政権は拉致問題を避けて通る道を見出さなければならないが、それによって日本の政策オプションは弱まる恐れがある。つまり、安倍総理は、拉致問題を満足のいく解決(これがどのようなものか安部総理自身が明らかにしなければならないが)に導くというコミットメントを示しながら、北朝鮮の行動が改善された場合に北朝鮮により柔軟にアプローチする可能性を示すというような狭い道を注意深く歩んでいかなければならないのである。現在の状況では政治的に難しいが、北朝鮮に対する制裁を日本が緩和するためのベンチマークを設定することは、この道を進むための実務的な第一歩であるかもしれない。この方向を探ることは依然として政治的に困難であるかもしれないが、もしこういうことができないとするならば、日本は、北朝鮮非核化の取組みにおいて、やはり重要でない存在たらざるを得ないのである。

 北朝鮮が休戦協定を破棄した現在、日本にとってより重大かつ緊急の問題は、北朝鮮との外交が再開しない場合に何をすればいいのかということである。日本は、米国から核の傘の有効性の再確認を得るのみでは安心できないという状況に陥るのだろうか?日本は独自のオプションを追求し始めるのだろうか?もしそうだとしたら、短期的には考えられないだろうが、独自の核装備というオプションがオプションたり得るほど深刻な状況になる可能性があるのだろうか?

 日本の方向性に影響を与える最も決定的な要素は、日米同盟の状況、より具体的には、東京・ワシントン間の信頼関係のレベルである。日本が米国との同盟関係について信頼できると感じられれば感じられるほど、日本は米国による防衛のコミットメントによってより大きな安心感を得るだろう。米国の核の傘を信頼する日本は、北朝鮮の脅威に対してより抑制的に行動し、引続き弾道ミサイル防衛への投資に重点をおき、米国との防衛関係を深化させるだろうと考えられる。他方、米国への信頼がぐらつくようであれば、日本は、独自の防衛力の強化-それが東アジアの安全保障環境を不安定化させる可能性があることを無視して-に向う可能性が高い。

 例えば、限定的な先制攻撃能力は、北朝鮮のミサイルの脅威の増大に対して、日本が中期的にみて-短期的には法的、外交的、財政的にみて可能性はないが-最も取り得る可能性の高い手段である。北朝鮮のミサイル発射地点への攻撃能力を意味する「策源地攻撃能力」は、北朝鮮の最初の核実験のときに、既に日本の中で議論の俎上に上っている。日本がそのような攻撃能力を備えるべきかどうかという問題は、「中期防衛計画」とともに年末までに見直される予定の防衛計画の大綱の見直し作業の中で、真剣に検討される可能性が高い。

 年初に北朝鮮の挑発が始まったとき、安倍総理は、慎重に防衛力増強の措置をとりつつ、北朝鮮との対話も求めていくというメッセージを発している。しかし、北朝鮮は現在、好戦的な発言を繰返し、次のミサイル実験を行う姿勢を示しており、対話の機会を見出そうとする安倍政権の関心は殆どなくなっているようにみえる。4月15日のケリー米国国務長官との会談において、安倍総理は、北朝鮮が国際的な取決めを尊重する可能性についての悲観的な見通しを共有したと伝えられている。ワシントンは日米同盟についての高いレベルの信頼を維持するためにあらゆる必要な措置をとることができるが、もし外交努力が行き詰ったときに、東京の対応が今後も慎重なものであり続け、北東アジアにおける軍備拡張競争を回避しようとするかどうかは、今のところ予断を許さない。




 [1] 2013年2月22日、安部晋三氏のワシントンCenter for International Strategic Studies (CSIS)でのスピーチ"『日本の回帰』"

 [2] 敵のミサイル攻撃などが確実視される場合に、専守防衛の観点から、敵地にあ るミサイル基地や発射施設などを攻撃することが考えられるが、そのように敵地 を攻撃する能力を備えることを『策源地攻撃能力』を保持するという。


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