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2013.02.28

米国に中国との共存戦略語れ

朝日新聞に掲載(2013年2月16日付)

  • 神保 謙
  • 主任研究員
    神保 謙
  • [研究分野]
    外交・安全保障

 安倍首相とオバマ米大統領の会談で、アルジェリア人質事件や中国のレーダー照射事件、北朝鮮の核実験など、北東アジアとグローバルな問題への対応で日米の結束を確認することは容易でしょう。集団的自衛権の行使に向けた国内環境の整備や米軍普天間飛行場移設への努力など、日米同盟を強化するための日本の努力を伝えることもできるでしょう。

 ただしこれらは日米が取り組むべき外交ビジョンの一部、100点満点でいえば50点です。米国がアジアに回帰し、中国が急速に台頭するなか、日本はどんな安全保障秩序を望むのか、そこで日米同盟をどう位置づけるのかがいま、問われているからです。

 中国の海洋進出や海上での傍若無人な振る舞いに対処するという一点に限れば、「日米同盟の強化」と「アジア諸国との連携」という答えで正しい。しかしワシントンが関心を持つのは、日本にそれを超えた中国との共存戦略が描けているのかという点です。

 だからこそ安倍首相は、今後の日中関係をどうするのか、戦略的に語るべきときです。対中包囲網をつくることに軸を置くのか、中国との互恵関係を深めるのか。二者択一ではないとしても、どう組み合わせるか、と。


■外交原則 柔軟に

 総選挙で安倍さんが主張した靖国神社参拝、河野談話の見直し、尖閣諸島への公務員常駐は、いずれも中国との外交の門戸を閉ざす可能性が高いものでした。さすがにトーンダウンしましたね。現実的な対中戦略を描く余地は残したと思います。

 他方で、安倍政権が掲げている外交原則についても、対中、対アジア戦略にふさわしいか、吟味する必要があります。

 安倍首相はインドネシアで「外交5原則」を掲げ、第一の原則として、自由、民主主義、基本的人権などの普遍的価値の拡大と定着をうたいました。第1次安倍内閣でも掲げた「価値観外交」ですが、中国を排除する意図が濃厚になると、米国やアジア諸国の賛同を得ることは難しくなります。戦略的パートナーとなり得るベトナムとの連携も妨げてしまう。むしろ、こうした国々を国際秩序に取り込み、国際協調的な行動を促す戦略が必要です。

 レーダー照射や領空・領海侵犯など、中国の挑発はやり過ぎですが、抗議しても挑発は減らないでしょう。大事なのは、戦闘にエスカレートさせない仕組みをつくること。例えば中国が「1」で来たら日本も「1」で応じる。「5」なら「5」の手を打つというステップを日中で合意する。挑発が何を招くか。エスカレートした際の恐怖を認識すれば、互い自制につながります。

 もちろん対中戦略をつくる前提として、対米関係の強化は不可欠です。なかでも集団的自衛権の行使の容認は急務でしょう。中国海軍の進出が進み、紛争のリスクが上がるなか、仮に米艦隊が攻撃されたとき、自衛隊が眺めているだけでいいはずはない。北朝鮮から米国に発射されたミサイルを見逃し、グアムや本土に着弾させることもあってはならない。集団的自衛権の問題はあまり政治化せず、粛々とこなしてほしいです。

 この問題では中国も過剰に反応しないと考えます。日米は1997年、日米防衛のための指針(ガイドライン)や周辺事態法で、台湾も含む日本周辺での米軍への自衛隊の後方支援を定めています。中国からすれば、集団的自衛権は「なにを、いまさら」でしょう。


■新興国と連携を

 昨年からシンガポールとタイで研究をしていますが、実感するのは東南アジアの対日感情の良さです。日本企業との関係は緊密で、雇用の面からも進出が歓迎されています。安倍首相の最初の訪問地が東南アジアだったことは、東南アジア諸国連合(ASEAN)の日本への期待を高めました。これは外交上の資産です。

 ASEANやインド、オーストラリアなど台頭する新興国と経済的な連携を強めるべきです。中国と建設的な関係をつくるテコにする一方、中国に問題行動があれば一緒に牽制もする。そのような柔軟な振る舞いが、米国が日本に期待する積極的外交だと思います。

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