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2012.05.11

日米安全保障協議会(2+2)共同発表:とりあえず一歩前進

  • 辰巳 由紀
  • 主任研究員
    辰巳 由紀
  • [研究分野]
    外交・安全保障

 野田首相の訪米直前の4月27日、日米両政府は安全保障協議会(2プラス2)共同発表を公表した。この共同発表により、鳩山政権以降迷走を続けていた沖縄の米軍基地再編問題には一応の区切りがついた。日米両政府が本来議論すべきより戦略的な問題の協議に集中できるようになったことは一歩前進である。


 沖縄に駐留する米海兵隊の再編は、1990年代中盤以降、日米両政府にとって頭痛の種となっていた。特に、海兵隊の普天間飛行場移設問題は、1996年に沖縄に関する特別行動委員会(SACO)最終報告書の中で取り上げられて以来、日米間の最大懸案の一つとなっていた。


 しかし、SACO最終報告書で定められた普天間移設プロセスが予定通り進まない中、日米両政府は2006年に改めて普天間移設に関する新しい合意に到達した。この新たな合意の下では普天間移設に必要な諸要因(具体的には①海兵隊第三遠征軍(III MEF)の人員のグアムへの移動、②普天間代替施設建設後の普天間飛行場移設、③嘉手納空軍基地以南の土地の返還)を一つのパッケージとして扱う。分かりやすく言えば「普天間代替施設が建設されるまで(或いは建設に向けた目処がはっきり立つまで)は土地の返還も、海兵隊のグアム移転もない」ということだ。当時、日米両政府がこのアプローチを取った理由は、これにより普天間代替施設の県内移設を沖縄県が受け入れるインセンティブが生まれることを期待したからだ。ところがその目論見は外れ、特に2009年、鳩山首相(当時)が普天間代替施設につき「最低でも県外」と発言してからは、2006年合意の履行はほぼ絶望的となっていた。


 今回、新たに日米が到達した合意では、前述の 3つの要因が切り離され、普天間飛行場移設の進捗状況に関わらず、嘉手納以南の土地の一部返還が可能になり、海兵隊のグアム移転に向けたプロセスも進めることができるようになった。また、移転先もグアムだけでなく、ハワイなども加わり、全体として西太平洋の米海兵隊は分散することになった。この新たな合意は、日米双方にとってメリットが多い。


 まず米国にとって、今回の合意内容は、1月に発表されたアジア太平洋にシフトする戦略に合致すると同時に、米議会に対しグアム移転費用を正当化することを可能にした。さらに、日本政府がグアム移転だけでなく、北マリアナ諸島に建設される予定の日米共同演習場や普天間飛行場の改修費の一部負担にコミットしたため、これら新項目予算の対議会説明も容易になった。


 日本にとっては、今回の合意により、米側からの圧力を感じることなく、辺野古移設案について再度沖縄県とじっくり交渉する時間的余裕が生まれた。また、返還予定の土地の一部が比較的早い時期に返還される環境が生まれたことも大きい。これにより沖縄県民に対し合意の利点を目に見える形でアピールすることが可能となり、辺野古移設案に対する沖縄県の姿勢軟化の可能性に希望をつなぐことができた。


 最も重要なことは、今回の共同発表により、1996年以来常に普天間移設問題が日米安全保障協議の中心になりがちだった傾向に、とりあえずではあるにせよ、歯止めがかかったことだ。特に、2006年以降、日米両政府の安保協議の大半は普天間問題に費やされ、他のより重要な問題の議論がたな晒しとなってきた。今回の合意により、日米の当局者は災害救助・人道支援、情報収集・監視・警戒活動、サイバー・セキュリティ、宇宙などさまざまな分野での米軍と自衛隊の協力などに関し具体的な議論ができるようになった。北朝鮮では不安定な状態が続き、中国の軍事力も着実に強化される中、日米両国が話し合うべき問題はたくさんある。制服組実務者レベルでは、既にこうした議論は進んでいるが、政策担当者レベルでも十分議論することが肝要だ。


 そうは言っても、不安材料は残っている。米国が抱える最大の懸念は、国防予算が今後、どの程度削減されるかであろう。「来年1月からの一律10%カット」という最悪のシナリオを回避できたとしても、現在国防省が想定している以上に国防省予算が削減される可能性は依然残っている。そうなった場合に、米軍の能力にどのような影響が及び、それがアジア太平洋地域にどのように波及するかは、依然として不透明だ。


 また、日本政府は、今回の共同発表により、普天間移設の責任を全面的に負ったことの意味をしっかり認識しなければならない。この合意で日本政府は、普天間飛行場の辺野古移設につき沖縄県とじっくりと協議する時間的猶予と政治的「のりしろ」を得たことは事実だ。一方、それでも沖縄県との協議に進展が無い場合には、「普天間飛行場の継続使用」という誰も望まない状態が続くことになる。当然ながら、その責任は日本側が負う羽目になるのだ。


 そうは言っても、4月27日の2プラス2共同発表は、現時点で日米が到達することができるギリギリの内容だろう。両国は今こそ、「同盟深化」に向けた作業を本気で始めるべきである。




注:本稿は、2012年5月3日にパシフィック・フォーラムCSIS発行のPacNet Newsletter に掲載された"The US and Japan Makes a Good Step, For Now" を翻訳し、これに加筆・修正したものです。

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