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2012.01.06

6カ国協議の行方~核は正恩氏生き残りの手段、新たな合意の可能性は低い

週刊エコノミスト(2012年1月10日号)に掲載

  • 宮家 邦彦
  • 研究主幹
    宮家 邦彦
  • [研究分野]
    外交・安全保障

 3代目である金正恩氏の最大の責務は、北朝鮮の「生き残り」だ。そのためには父からの権力継承を円滑に行うだけでなく、国内経済を立て直すことが不可欠だろう。北朝鮮経済が対外依存を脱して自律的に成長し始めない限り、現体制は早晩行き詰ると思うからだ。

 11年5月、首都・平壌とその近郊を訪れる機会があった。その際、見た北朝鮮経済は実に悲惨なものだった。農村では既に田植えが始まっていたが、トラクターや田植え機など機械類はほとんど見かけなかった。

 今も全てが手作業の北朝鮮農業に、明日はないと実感した。しかも、権力の世襲が3代目ともなれば国民の経済的不満は一層高まるだろう。金正恩氏としても、服喪期はともかく、いずれは国内経済システムを改革し、再生産が可能な社会を作らざるを得ないはずだ。

 要するに、金正恩は「金王朝」の3代目として生き残るだけでなく、これから喪中の数年間に「朝鮮民主主義人民共和国」体制の生き残りのめどをつけるという極めて実現困難な責任を負わされた、といえるだろう。


協議の不愉快な真実

 以上を前提に、金正日総書記死去が核問題をめぐる6ヵ国協議に与える影響ついて考えたい。まずは、6ヵ国協議の経緯を再検証し、その「目的と限界」を正確に理解すべきである。03年夏以来6回開かれてきた同協議には、誰も口には出さない3つの「不愉快な真実」があると思うからだ。

①北朝鮮は核兵器を放棄する気がない
 現在の北朝鮮軍に1950年の時のような大規模戦争を長期間戦う能力はない。だからこそ北朝鮮は、非通常戦力を強化して米国・韓国・日本を抑止し、「生き残り」を画策してきたのである。いうまでもなく、非通常戦力とは核兵器と特殊戦部隊を指す。
 今ごろ、北朝鮮の指導者たちは「核兵器開発」が持つ抑止力の強さを実感しているに違いない。そうであれば、北朝鮮が核開発を放棄することはまずなく、今後、北朝鮮製の核弾頭はますます小型化していく。我々はこのことを覚悟すべきである。

②日米中韓は戦争を望んでいない
 冷戦時代とは異なり、現在の韓国は北朝鮮と大戦争を戦うには豊かになり過ぎた。「平和国家」である日本は元々、戦争は真っ平である。中東で過去10年戦ってきた米国も、本音は今、朝鮮半島で戦争などしたくはない。
 こうした事情を北朝鮮は知り尽くしている。だからこそ、韓国が本気で反撃できないぎりぎりの挑発を繰り返しては、日米韓に無言の圧力を掛けている。失うものがあまりにも多い韓国にとって、この戦術は実に効果的なのだ。

③6ヵ国協議では核問題は解決しない
 日米韓の足元を見る北朝鮮の行動は、ほぼ定型化しつつある。6ヵ国協議での合意→合意不履行→対韓米日挑発→対話拒否→態度軟化→対米交渉→交渉本格化→対北朝鮮譲歩→新たな合意・・・・・・、6ヵ国協議では、この不毛な交渉パターンが何度も繰り返されてきた。
 要するに、6ヵ国協議は北朝鮮の核問題を解決するメカニズムではなく、現状を維持するための一種の北朝鮮用「生命維持装置」に過ぎない。特に、中国にとっては「議長」と「開催地」を握り、中国抜きの政策変更が事実上不可能な理想的な会合に仕上がっている。


行き詰れば挑発も

 以上のように、ポスト金正日の北朝鮮国内政治ゲームの力学と6ヵ国協議の力学は、基本的にそれぞれ別物である。もちろん、北朝鮮国内の権力継承の過程で6ヵ国協議の内容が影響を受けることはあるだろう。しかし、その逆は必ずしも真ではない。
 例えば、正恩氏の権力継承が何らかの理由で行き詰れば、新体制が新たな冒険主義に打って出る可能性も否定できない。ただし、こうした動きも全く新しいパターンではなく、あくまで日米韓の足元を見た伝統的「瀬戸際」戦術の一環と見るべきであろう。

 少なくとも、金正日総書記死去によって、6ヵ国協議の行方に新たな希望が見えてくる可能性はあまりない。正恩氏は父親以上に体制の「生き残り」を求めるだろうから、核兵器に関する北朝鮮の戦略を大きく変更できるとは到底思えないのである。

 つまり、北朝鮮の核問題解決を目的とした6ヵ国協議が、新たな実質的合意に向けて動き出す可能性は低い。むしろ、正恩氏が新たな挑発で、北朝鮮の「値段」を吊り上げてくる危険の方が心配だ。どうやら、12年も6ヵ国協議の見通しは明るくなさそうである。

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