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2011.10.25

政治任用制度の研究(12):政治任用と官僚の「すみわけ」

シリーズコラム『政治任用制度の研究:日本を政治家と官僚だけに任せてよいのか』

  • 辰巳 由紀
  • 主任研究員
    辰巳 由紀
  • [研究分野]
    外交・安全保障

 野田政権になって多少の軌道修正はされているように思いますが、それでも「政治主導」というと日本ではイコール「官僚の排除」と捉えられることが多いのだろうか。そして「政治主導」を唱える人々がすぐに持ち出すのは「政策アイデアを官僚に独占されないためにも米国型のシンクタンクを」「米国の政治任用制度を日本に取り入れるべきだ」といった議論である。
 日米の社会構造の違いに目を背けた、これほど上滑りな議論はない。まず「米国型シンクタンク」について言えば、日本とアメリカではシンクタンクを支える活動基盤も財政基盤、果たす機能がまったく異なる。アメリカでは、企業や役所と無関係の非営利団体の立場のシンクタンクが多く存在し、これらのシンクタンクの活動は、(1)政策研究に高額の助成金を出す助成基金、(2)非営利団体に寄付をすると租税面で優遇されるため、非営利団体への寄付に前向きな企業や個人、(3)中長期的政策論議の材料として使うため、シンクタンクに政策研究を委託するための予算を毎年、一定額確保している政府、などにより支えられている。そして、これらのシンクタンクで主任研究員以上のポジションで働いている人材は、政権が変わればいわゆる「政治任用者」として行政府に入っていく。つまり、シンクタンクは、実質的にはその時々の野党で政策スタッフとして働いていた人材が「野に下っている期間」を過ごす場所という位置づけもされているのである。
 そして「政治任用制度」についてであるが、米国でも政治任用者が行政府の中堅・幹部職について1から10まで何でも自分たちでやるわけではない。米国の政治任用制度も、(1)政治任用者、(2)政治任用者自身のスタッフ、(3)官僚、の3者がそれぞれの持ち場で与えられた役割を果たすことで機能している。そして、3者の関係も(1)と(2)が(3)を意のままに使っているーというほど単純なものではないのだ。
 このことを実感したのは、ブッシュ政権2期目にクリストファー・ヒル国務次官補(当時)の上級アドバイザーとして国務省に入っていた友人と話していたときだ。彼女は国務省入りする前はシンクタンクで研究員をしていた。年齢も近く、日ごろからちょこちょこと会ってお昼を食べていた人が政権入りするのは、私にとっても初めてだった。オバマ政権になり彼女が国務省を離れ、少し落ち着いたところで、彼女の経験について聞いてみたいと思い、会うことにした。
 そのときに聞いた彼女の話を総合すると、少なくとも国務省の中では、上記の(1)~(3)がかなり密接に繋がり、業務に当たっているようであった。特に意外だったのは、
(1) 国務次官補が政治任用であるので、その下に複数置かれている次官補代理の中の筆頭次官補代理はプロの外交官が就くのが慣例
(2) 「上級アドバイザー(Senior Advisor)」は政治任用者のスタッフが持つタイトルで、「特別補佐官(Special Assistant)」は官僚が持つタイトル。政治任用者にはほぼ必ず、国務省出身の「特別補佐官」がついている。
など、「政治任用制度」とは言え、政治任用者及びそのスタッフと官僚の間で、ポストについては「すみわけ」が行われており、政治任用者といえども、官僚機構からの支援なしには業務が遂行できない状態に構造上なっている、ということであった。そういえば、知り合いを思い出してみれば、国務省はもちろん、国防省でも「日本担当部長」など、日々の連絡業務の窓口の核となるポストを政治任用者が占めていた例は思い出すことができない。政治任用者は日本との関係で言えば審議官級協議になって初めて登場する印象だ。
 そして、心ある政治任用者は自分を支える官僚を大事にしている。私が身近に見聞きして知っているだけでも、カート・キャンベル現東アジア太平洋担当国務次官補が15年前にクリントン政権で国防次官補代理として働いていたときには、彼の下で働いていたウォレス・グレッグソンアジア太平洋部長(前アジア担当国防次官補)、ロビン・サコダ日本部長やジム・アーミントン日本課長との関係は非常に良かったし、当時、国務省で東アジア太平洋局の筆頭次官補代理を務めていたラスト・デミング氏については「日本については彼が全部私に教えてくれた」と常に気を遣っていた。リチャード・ローレス国防次官補代理も、ジョン・ヒル日本部長やマイケル・フィナガン韓国部長の意見をいつもよく聞いていた。
 このことは何を意味するか。つまり、外から見る以上に、米国であっても、「政治任用者」は官僚組織に依存しているということだ。逆に言えば、官僚組織を掌握できなければ、政治任用者として効果的な働きはできない。
 やはり「政治主導→政治任用制度導入→官僚軽視」は余りに短絡的なのである。

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