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2018.10.01

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第114号(2018年10月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

  • 栗原 潤
  • 研究主幹
    栗原 潤
  • [研究分野]
    米国情報・ネットワーク

 先月上旬にロボット・AI関連に関する会議のためシンガポール、中旬にはAIに関する会議のため英国に飛んだ。そして英国の後に友人達と面談のため独墺仏に寄って帰国した。

 内外に関係なく優れた頭脳の持ち主との出会いほど楽しいことはない。シンガポールでは情報工学の専門家で中部大学の岩堀祐之教授と、ロンドンでは米国ケンブリッジのMITに隣接するTakeda Pharmaceuticals Internationalで、Analytical Innovation and Consultationのリーダーを務める劉睿哲氏(Dr. Ray Liu)と語り合えたことが今回の出張の"最大の成果"だ。
 岩堀教授と話しているうちに、分野は異なっているが共にMITのComputer Science and Artificial Intelligence Laboratory (CSAIL)とのご縁があった事が判明して互いに喜び合った次第だ。
 ロンドンの会議では、劉博士による報告("Big Data and Precision Medicine")の高度な内容に感激して質問を行い、報告後の2日間にわたり、研究上の課題に加え劉氏が活躍する研究所や彼の故郷である台湾の話、更には筆者のケンブリッジ時代の話等を語り合った次第である。ロボットもAIも将来にわたり発展してゆく技術で、その過程では国家・企業・研究者個人・利用者・一般市民が互いに競争し合う場だけでなく、協調・補完し合う場も必要だ。こうした理由から、岩堀、劉両氏との邂逅は意義深いものであった。出張中、小誌109号(本年5月号)で簡単に触れたロボット研究の"同志"である黒川清教授と本田幸夫教授には早速成果を連絡し、研究活動を更に加速させようと思っている。また劉博士から彼の編著書(Pharmaceutical Statistics, Springer, December 2018)を教えて頂き、帰国後に読んでみることにしている。


 筆者は理屈だけでなく、実際にAIを利用して現状を把握すべきと考えAI実装の翻訳機を携えその性能を検証している。筆者の機械は海外でも使えるグローバルSIM内蔵で、60以上の言語を翻訳出来、出張先のヴィーンで自慢げに実演し、使用を通じて具体的な長所・短所が確認出来た。

 筆者に必要な言語は非常に少ないという事に気付いた--機械翻訳可能なアゼルバイジャン、クルド、シンハラ、ズールー、パシュトー語等の言語は、恐らく一生お目にかかることのない言語だ。ラテン語やエスペラント語は魅力的だが「話し相手がどこにいるのだろうか」と思っている。同時にドイツ語には標準語(Standarddeutsch)に加え、オーストリア・ドイツ語(Österreichisches Deutsch)やスイス・ドイツ語(Schweizerdeutsch)が「有ったらいいな」という事にも気付いた次第だ。


 小誌前号でスザンヌ・バーガーMIT教授によるForeign Affairs誌上の小論に触れた。この小論は利害関係が複雑に絡みあい混沌とした現在の国際・国内政治に関し、示唆的な視点を提供してくれる。

 バーガー教授は、ロバート・カトナー氏--現在ブランダイス大学で教鞭を執っているリベラル系のジャーナリスト--が近著(Can Democracy Survive Global Capitalism? April 2018)で示した主張に関し批評を行った。同教授は、「トランプ現象を含む自傷的な民主主義の混乱の元凶は所得格差拡大というカトナー氏の指摘は正しい。だが、同氏は解決策としてニューデール政策を挙げているが、その論拠は単純で脆弱である」と語る。
 New Dealはカトナー氏が語るような「一般国民のために高い志のエリート層が、種々の利権を手中にしたエリート層に対抗して実施した政策」ではなく、実は「利害が本質的に異なる種々のエリート層が大同団結的に集結した結果として出現した政策」なのだ。しかもカトナー氏はpopulismに関し"苦し紛れ"の分類を行っていると教授は語る--その分類とは、(1)New Deal推進派のエリートを支持した"進歩的"populismと(2)トランプ大統領(そしてファラージ氏)のような煽動家達の背後にひかえる"ファシスト的・反動的"populismの2種類。史実はルーズヴェルト大統領を含む指導者達が議会内の北部・西部の民主党議員に加え、利害が異なる南部民主党議員を味方に着けたが故に、New Deal関連の諸法案が米国議会を通過したのだ。そして時が経つにつれて南部議員がNew Dealの"予想外の進歩性"に気付き、離反し始めた時からNew Dealが停滞したのだ。
 現在の社会不安の原因は主として3つ--中国等との貿易摩擦、メキシコ等との移民問題、AI等による技術進歩--と考えられている。この社会不安という奇禍を巧みに悪用するエリート(or demagogues(?))を辛抱強く説得し、"味方"にする才覚を持つMachiavelian的"聡明さ(狡猾さ)"こそが、現在の指導者に求められる資質である、と教授は示唆した--カントが述べた如く、「政治は語る: "蛇のように怜悧であれ"(Die Politik sagt: „Seyd klug wie die Schlangen")」なのだ。筆者は、明治維新時に開国という壮大な目的のため、憎しみ合う薩長を結びつけた坂本龍馬や、討幕・佐幕に関係なく優れた人材と交流した勝海舟のような指導者こそ、現在に求められているのだとバーガー教授の小論から感じ取っている。



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「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第114号(2018年10月)PDF:357.9 KB

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