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2018.05.28

中国、米国がリードする世界で日本企業が復活する条件-社長の任期を10年以上に、問題発生時には躊躇なく交代を-

JBpressに掲載(2018年5月23日付)

  • 瀬口 清之
  • 研究主幹
    瀬口 清之
  • [研究分野]
    中国経済・日米中関係
1.問題意識

 以前はグローバル市場における有力企業の中に多くの日本の大企業が名前を連ねていたが、最近は米国企業や中国企業に押されて後退している。

 例えば、フォーチュン・グローバル500の世界企業番付をみると、野村資本市場研究所の関志雄氏が指摘するように、1995年時点では日本企業は500位以内に149社が入ったが、2017年は51社まで減少した。

 一方、中国企業は逆に3社から105社(中国政府は115社と発表)に急増している。この間、米国企業は同期間に151社から132社に減少しているが、国別では引き続き首位を維持している。

 もちろん、優良企業の基準は売上高や利益の大きさといった外形標準だけではない。

 しかし、中国国内市場やシリコンバレーなどにおける最近の日本の大企業の動きを見ていると、以前の日本企業に比べても、新たな市場にチャレンジする活力そのものが低下しているように見える。

 そう感じているのは筆者だけではない。最近、筆者が現役・OBの大企業経営者や経済通の有識者に直接会った際に、上記のような筆者の見方を伝え、それに対する意見を聞いてみると、ほぼみな同じような見方をしていた。

 前月、筆者がこのコラムでそうした見方を述べたところ、多くの方々から同感であるとのご賛同を頂いたほか、日本の大企業の活力が低下したその他の原因について教えていただいた。

 そうしたご意見、アドバイスを踏まえて、改めて論点を整理した。

 以下の論点については、様々な異論や賛成の意見が存在するはずである。そうしたご意見を頂戴し、さらに筆者の認識を深める機会となることを期待している。



2.原因1=社長の任期が短い

 日本の大企業がグローバル競争の中で後退している原因として考えられる点を列挙すれば、以下のとおりである。

 第1に、社長の任期が短いことである。

 日本企業の競争力低下要因として、経済のグローバル化やIT化などによる急速な市場の構造変化についていけなくなっている日本企業が多いことが指摘されている。

 日本企業がグローバル市場の第一線で注目を集める企業として復活するには、長期的・根源的な視点から経営を抜本的に見直す必要がある。

 そのうえで、新たな経営戦略を構築、実践し、その成果を検証して、一段と磨き抜かれた経営戦略を練り上げ、実践するという経営活性化のサイクルを回すことが必要である。

 多くの日本企業はそれができていないため、急速に変化するグローバル市場の中で競争力が低下し、影が薄くなっている。

 最近の日本の大企業の社長の在任期間は平均で5.7年、中央値で3年というデータがある(東京経済大学 柳瀬典由ゼミナール調べ、対象企業は東証一部上場1万2249社、対象期間は2004年3月期~12年3月期)。

 社長の職責の重さ、必要とされる実務能力の高さを考慮すれば、この任期は明らかに短すぎる。

 日本の大企業の社長は、新卒で採用され、その企業一筋で勤務し続けた生え抜きの人物が就任するケースが多い。したがって、新たに社長に就任する経営者はそこで初めて社長の仕事を経験することになることが多い。

 大企業の社員としての経験は短くても30年以上積んでいるが、社長は初めての経験である。つまり、ほとんどの日本の大企業の社長は就任時において社長業の素人である。

 社長の仕事は副社長以下の仕事とは大きく異なる。例えば、社長が主に担うべき重要任務の一部を列挙してみよう。


◇全役員・主要幹部等の人事
◇広報戦略・IT戦略等重要経営方針の判断・決定およびその実践
◇会社を代表してスピーチや発言を行う政官財各界の様々な重要行事

◇内外の重要拠点・取引先への訪問・視察
◇他業界・海外ビジネス関係の重要人物との交流
◇経営理念・経営基本戦略の抜本的見直し

◇10年、20年後の将来を見据えて会社の進むべき方向の見極め
◇そのために必要な既存分野のリストラと新分野へのチャレンジの決定と実行推進

 このほかにも社長独自の重要任務は非常に多い。これらの仕事は副社長の時代まで、部分的にサポートすることはあっても、自分の最終責任の下で実行することはない仕事ばかりである。

 これらを限られた時間の中で、しかもそれぞれについてきちんとした結果を出し、着実に成果を上げていくというのは、大企業の社内で最も優秀な人材であっても並大抵の努力で成し遂げられるものではない。

 それらの重要任務のどれかで躓けば、メディアや社内の幹部等から厳しく批判され、その精神的なダメージが他の重要任務にも大きく影響する。

 こうした重責を担う職務を余裕と自信を持ってこなしていけるようになるまでには1~2年の短い期間ではまず不可能である。一般的には、少なくとも3~4年の経験を積むことが必要である。

 もし社長の任期が5~6年であるとすれば、ようやく社長として余裕と自信が持てるようになり、重要な経営課題へのチャレンジができるようになった頃に、もう社長退任に向けた準備が必要になる。

 具体的には、社長・役員体制の後任人事、業績がいい形で次期社長に社業を引き継ぐための準備、深刻な問題が明らかとなった対外非公表懸案の円滑な処理などを退任までに無事に終えるには1~2年の時間が必要になる。

 このように社長の仕事を考えてみると、初めて社長を経験する人物が3~6年という日本の大企業の平均的な在任期間において、経営理念・経営基本戦略の抜本的見直し、あるいは、10年、20年後の将来を見据えて会社の進むべき方向の見極めといった長期的な重要課題に立ち向かう時間的余裕は極めて乏しい。

 ましてや、新たな経営戦略を実践し、その成果を検証して、一段と磨き抜かれた経営戦略を再構築し実践するという経営活性化のサイクルを回すことができるはずがない。

 1990年代以降のグローバル化の進展、IT技術の急速な発達、2000年代以降の中国の台頭、2008年リーマンショック後の欧米市場の後退など、グローバル市場の構造は根底から大きく変化し激動が続いている。

 日本の大企業がこの激烈なグローバル競争の中で勝ち残るには抜本的な経営戦略の立て直しが不可欠である。

 それができない企業は当然の結果としてグローバル競争から脱落する。最近の事例を振り返っても、日本の大企業の中に競争から脱落した典型例がいくつもあるのは周知の事実である。

 このような日本の大企業が置かれている厳しい状況に真正面から立ち向かい、経営を抜本的に立て直すためには、社長の任期を10年以上に伸ばし、未経験の社長が就任しても在任期間中に社長としての能力を高め、グローバル競争に立ち向かえる能力のある社長を育てる仕組みが必要である。

 もちろん、社長就任後にその能力に問題があることが判明することも多い。その場合、任期が3~6年であれば、次期社長への引継ぎまで何とか我慢して、途中解任といった荒療治は行わずに型通りに引き継ぐという発想が浮かびやすい。

 しかし、10年以上の任期を前提とする場合には、そこまで待つことはできないため、任期途中で次期社長への交代を考えざるを得なくなる。それはかえって、問題が判明した後の対応を速めることになると期待できる。

 これは現実的には実行が難しい理想論かもしれないが、もしこうした社長選任に関するモラルがきちんと維持されれば、能力の高い社長の時代が長くなり、能力が不足する社長の時代が短くなるというメカニズムが働くようになる。

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