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2018.05.17

情勢の本質見抜くには: 今学ぶべき20世紀の失敗

電気新聞「グローバルアイ」2018年5月15日掲載

  • 栗原 潤
  • 研究主幹
    栗原 潤
  • [研究分野]
    米国情報・ネットワーク

 朝鮮半島情勢が目まぐるしく変化する中、代表的日本人ジャーナリストの一人である松山幸雄氏の言葉を思い出している。同氏は1990年のドイツ統一の前に、英国国際戦略研究所(IISS)のクリストフ・バートラム所長が「ドイツ統一は幻想」と断言した事を例に挙げ、「国際情勢は専門家泣かせ」と語った。

 トランプ氏を選んだ米大統領選やEU離脱を選択した英国の国民投票が示す通り、「国際情勢は専門家泣かせ」であり続けるに違いない。時として専門家ですら見誤る千変万化の世界情勢に対し、我々はいかなる態度で臨むべきか。

 筆者は多くの専門家の"学識"と"最新情報"を総合的に参考にすると同時に、みずからの経験から会得した"良識"に基づき、自身で判断すべきと考える。瞬間的にいかに望ましく見え、またいかに快く聞こえたからといって、冷静に考えると明らかに"良識"に反するものを妄信する事こそ、我々素人は勿論、専門家であっても危険なのだ。しかも"最新情報"を軽視する指導者が誤った判断を下した時には、社会全体の悲劇につながる。

 そしてその"良識"とは、個々人が理性と感性とをバランスよく絡ませ、幅広く政治経済・社会・技術・文化芸術に関し、年を重ねて熟成させる"総合的評価能力"なのだ。

 今回、"良識"に関し、極右派の台頭で政情不安が高まるドイツの友人と最近交わした会話を紹介したい。

 筆者が「移民や保護貿易主義の問題に関し欧州をリードすべきはドイツだ。すぐれたリーダーシップが無ければポピュリストが跋扈(ばっこ)する」と語った時、友人は「何度言ってもジュンは理解してない。リーダーシップに戸惑うドイツ人の心理を分からないのか」と反論した。確かにドイツは"リーダーシップ"に対して複雑な態度を示す。そのわけは簡単。ヒトラー総統を日本語で語る時の"総統"はドイツ語で"フューラー"(英語の"リーダー")。そしてドイツ語の"フュールンク"(英語の"リーダーシップ")は彼等の心の中に今も"影"を落としている。

 筆者は「人々の良識を導き出す教養豊かなリーダーが現れないと、巧みにささやきかける煽動者が新たな"総統"に変身してしまう」と反論し、続けて次のように語った--1940年の三国同盟締結時、英独ソの各国に駐在する日本大使が反対したにもかかわらず、最新情報に疎い政治家と善良で純粋だが世界情勢に疎い人々を中途半端な専門家が説得してしまった。指導者と一般市民が洗練された良識を持っていなければ必ず悲劇が到来する。

 ドイツの友人が「じゃあ、ジュンが当時生きていたら」と問いただしたので次のように返答した--ボクならば1936年11月の日独防共協定締結直前に日独友好に終止符を打つ。良識で考えれば理由はとても簡単。その直前、ライプツィヒのメンデルスゾーン像を破壊したから。なぜならバッハの『マタイ受難曲』を百年ぶりに復活させた大音楽家の像をユダヤ人だという理由だけで。これは健全なるドイツが本来為すべき行為では絶対ないはずだ。

 さて、朝鮮統一の夢はいつまで見続けられるのか。一時的な感情に流されず、良識に基づく冷静な判断を下さなくてはならない。

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