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2018.01.24

不安定な欧米に代わり長期安定の日中が担う世界秩序-多極化に向かう世界の中で日本企業に期待する役割と克服すべき課題-

JBpressに掲載(2018年1月19日付)

  • 瀬口 清之
  • 研究主幹
    瀬口 清之
  • [研究分野]
    中国経済・日米中関係
欧米諸国の内政不安定化

 2017年という年は、グローバル社会の多極化時代の到来とその変化の加速を実感する1年だった。それを象徴的に示したのは欧米主要国と日中両国の国内政治情勢の対照的な様相だ。

 米国では長期にわたって経済発展の恩恵を得ることができていないことに不満を募らせる一般庶民が、エスタブリッシュメント層に対する反発を強めるなか、庶民の支持を受けたドナルド・トランプ政権が誕生した。

 しかし、トランプ政権が国内で取り組んだ社会保障改革や税制改革などはその支持者層に対して不利益になるような内容だった。外交面では世界のリーダーになろうと考えない米国最初の大統領として、パリ協定や米国が主導したTPPからも離脱した。

 挙句の果てにエルサレムを首都と認定した米国の決定に対して、それを無効とする国連決議まで採択される事態に至った。

 これまで世界秩序形成においてリーダーシップを発揮してきた米国がこのような行動を採ったことに世界中が驚き、呆れた。

 米国のみならず、欧州では難民問題の深刻化などを背景に英国のEU離脱が進行しつつある。

 ドイツではアンゲラ・メルケル首相の率いる政党が総選挙において1949年以来最悪の結果に直面し、過半数の安定政権を維持するための連立協議も未成立の状態が続き、政局が不安定化している。

 これはEUの存続そのものにダメージを与える可能性が懸念される事態である。

 このように欧米主要国では経済社会状況に対する国民の不満が噴出し、内政が不安定化している。その影響が外交にも及びつつあり、世界秩序形成のリーダーとしての地位の相対的低下が加速している。



日中両国の政権は長期安定基盤を確保

 一方、アジアでは安倍晋三政権が10月下旬の総選挙で圧勝し、それと同時期に中国では習近平主席が強力なリーダーシップを発揮して第19回党大会を無事に終え、安定した政権基盤を固めて政権第2期に入った。

 アジアをリードする日中両国は欧米主要国とは対照的に、現政権が長期的に安定した政権基盤を確保し、内政運営に取り組んでいる。

 経済面に注目すれば、世界経済の成長をリードする中国は昨年から今年にかけて過去数年間で最も安定した経済状態にあり、少なくとも2020年頃までは基本的な安定が続くことが予想される。

 その中国市場において、2010年代入り後、消費意欲の旺盛な中間所得層が急拡大し、日本企業の得意な高付加価値製品・サービスの需要が急増している。

 日中関係が徐々に改善方向に向かっていることもあり、中国ビジネスの業績好調が続く日本企業は2017年以降、対中投資姿勢を積極化させている。

 一方、欧米企業は中国政府の自国産業保護政策に対する反発に加え、市場での競争力を強め、欧米企業を次々に買収する中国企業の脅威に対する不安の高まりなどを背景に中国ビジネスへの取り組み姿勢が消極化している。

 急速な成長が続く中国国内の巨大市場において、日本企業と欧米企業の向かう方向は逆を向いてる。

 この間、日本の社会情勢を見ると、反エスタブリッシュメント機運の高まりを背景に不安定化している欧米主要国の深刻な社会状況と異なり、主要先進国の中で唯一安定を保持している。これは企業行動の違いが主な要因であると考えられる。

 大半の欧米企業が短期利益の拡大、株価の上昇、経営者の高水準の給与を経営目標として追求するのに対し、多くの日本企業は経営理念として、社会への貢献、長期的信用重視、従業員の日々の安全・幸福・自己実現などを尊重している。

 こうした経営理念が共有されているため、日本企業の経営者の給与水準は欧米企業に比べてはるかに低い水準にとどまる一方、従業員の雇用は安定している。

 欧米企業の経営者はこうした日本企業の経営理念を高く評価してはいないが、日本はこのおかげで所得格差の拡大が抑制され、社会の安定が保持されていると考えられる。

 以上のように日中両国の内政の安定と欧米主要国の社会状況および政局の不安定化は対照的な様相を示している。

 こうした内政面の違いは徐々に外交面にも反映されることが予想され、世界秩序形成において今後相対的に日中両国の果たす役割が高まっていく可能性が高いように思われる。



日本企業に期待する役割と克服すべき課題

 以上のような世界情勢の新たな潮流の中で、日本企業は今後ますますグローバル経済を牽引する役割を担うことが期待される。

 しかし、現在多くの日本企業の国際競争力は十分とは言えず、そうした期待とは程遠い状況にある。今後日本企業が競争力を強化するために改善すべき課題と目標を列挙すれば次のとおりである。

 第1に、長期にわたる高度なチームワークに基づくすり合わせ型技術開発など日本企業が得意な分野での世界トップクラスの技術力にさらに磨きをかけるとともに、そのために必要な人材を継続的に育成する仕組みを構築する。

 第2に、中国市場を中心に中国の優秀なリーダーと協力し、中国人の高いマーケティング力に基づく経営戦略と日本人の地道なイノベーション力・生産管理能力を組み合わせて企業競争力を強化する。

 それにより、日本企業の意思決定を大幅に迅速化し、市場ニーズに合致する製品の開発期間を短期化し、経営効率の向上と収益力の強化を図る。

 第3に、上記の方法で企業競争力を強化し、欧米諸国を含め世界各国で市場シェアを高めて投資規模を拡大し、グローバル社会を視野において雇用の安定確保および納税額増大の両面で貢献する。

 すなわち、これまでの日本国内を対象とした社会貢献の範囲を拡張し、グローバル社会をベースとした経営理念の実践を目指す。

 第4に、グローバル社会の安定に貢献する経営理念の実践を通じ、日本のソフトパワーの担い手として各国の企業行動に影響を与え、グローバル社会の安定化をリードする。



日本企業の経営者自身の問題点

 以上のような観点から、日本企業の経営実態を見ると、大企業の経営者は多くの問題を抱えている。

 第1に、市場はグローバル化しているにもかかわらず経営のグローバル化が遅れていることである。

 欧米・中韓企業に比べて日本企業は一般にマーケティング能力が低く、外国の市場ニーズを的確に把握し、研究開発、デザイン、生産コスト引き下げなどを迅速かつ有効な形で実施している企業は多くない。

 これはグローバル市場を攻略する手法に対する経営トップ層の理解力・経験不足、マーケティング主導型経営に適合した組織への組織変革力が不十分であることなどによるものと考えられる。

 第2に、多くの大企業の経営者に共通に見られる傾向として、想定される社長・役員の数年間の任期を無難にこなすことが主目標になっていることである。

 このため、企業の長期的発展のために必要な大胆なチャレンジ、長期の継続が必要な研究開発を通じたイノベーションや成果が出るまで数年以上を要するプロジェクトなどに取り組む努力、そうしたことを私心なく徹底的に実践する経営幹部・研究者人材の育成などに本気で立ち向かう経営者が少なくなっている。

 第3に、既存の大企業の枠組みの中でブレークスルーを生み出すのは困難であるように見えることである。

 かつてのソニー、ホンダ、パナソニック、イトーヨーカ堂のように一代で中小企業から大企業を立ち上げる経営者を多く輩出し、支援する仕組みを考えるべきである。



教育こそが人材育成の土台

 以上の課題解決のための重要なカギを握るのは経営者自身の能力である。

 一般的な事業部制に基づく日本企業の経営組織構造を前提とすれば、マーケティング能力に秀で、グローバルな経営戦略を的確に構築し実践するリーダー人材が従来型の大企業から出てくる可能性は低いと言わざるを得ない。

 そうした経営者は1つの事業部の中で一歩一歩昇進を重ねて社長に就任するような経歴の人材からは生まれにくい。

 経営者としていくつかの企業または事業を経験するか、あるいは創業者が中小企業を大企業に発展させる過程で長期にわたって経営トップとして企業を率いる経験を持っていることが必要であろう。

 大企業も含めて日本企業の競争力の土台を支える人材を生み出せるようにするためには、どのような条件が必要だろうか。

 第1に、経営者としての高い能力を備えていれば、それを十分生かすことができる経営組織が存在することが大前提である。すなわち、企業経営のグローバル化を推進できる海外経験豊富な高級人材を社外から積極的に採用し活用する仕組みが必要である。

 これは、民間企業のみならず、中央省庁でも同様である。日本政府は本来であれば、局長以上級の幹部はポリティカル・アポインティーとして外部の高級人材を積極的に活用することが求められる時代になっている。

 そうなれば生え抜き幹部による各省各局の既得権益確保のための利害争いではなく、広く国益を考えた政策運営の成果を重視する傾向が強まるため、省庁間の縦割り行政が抜本的に改められることが期待できる。

 第2に、優秀な経営リーダー・研究者人材の育成には日本の大学教育のレベルアップが必要である。

 最近は大学の予算が大幅に削減され、研究活動が以前では考えられないほど厳しい制約を受けているという話を耳にすることが多い。これが日本の国力に深刻な悪影響を及ぼすことは明らかである。

 そこで、国内での大学教育発展のために企業による寄付講座促進制度を設け、寄付講座への出資額は費用として計上することを認めると同時に、一定額以上の寄付を行った企業は高等教育貢献企業として減税措置を講じるといった方法などにより大学予算の拡充を検討すべきである。

 また、政府としても企業の関心の対象外で寄付が集まらない基礎的な学問分野などに対する予算の拡大を図り、大学教育のレベルアップに注力すべきである。

 第3に、国家を支える人材育成においては初等・中等教育の拡充も不可欠である。

 かつては日本でも小中学校には優先的に予算が配分され、貧困層の児童でも平等な教育を受けられる機会が与えられていた。

 今後は小中学校におけるICT設備の大幅増強、専科補助教員・特別支援要員等の拡充など教育予算の大幅拡充を図ることも極めて重要な課題である。

 第4に、2018年度から教科となる道徳教育において、社会貢献を重んじる姿勢の醸成、日本の発展に貢献した歴史上の人物の学習、リーダーシップ教育の重視、万物の生命を尊重する東洋的思考の学習の拡充などにも注力し、グローバル社会をリードできる人材育成を意識した教育改革を目指すことも重要である。

 現在の政府の予算配分は高齢者の社会保障の充実に偏り過ぎている。社会保障は現在の社会の安定を支えるが、このままでは次世代を担う国民の教育・研究水準が低下し、日本の経済社会そのものが揺らいでしまうリスクがある。

 長期的に持続可能な国家運営を展望し、日本の人材資源育成を徹底強化し、日本の経済社会の発展と世界秩序形成をリードする人材の輩出を促進すべきである。

 長期安定政権である安倍政権だからこそ、こうした世界が多極化に向かう21世紀の日本の将来を見据えた長期的、根源的な政策運営の実践に期待したい。

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