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2017.12.01

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第104号(2017年12月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

  • 栗原 潤
  • 研究主幹
    栗原 潤
  • [研究分野]
    米国情報・ネットワーク

 日本はまさしく"熱狂的AI時代"の真っ只中にある‐毎日の如く「人工知能(AI)が...」という話に溢れている。その一方で『日本経済新聞』紙は、日本のAI研究者が世界の中で孤立する姿を伝えている。

 11月3日付記事によれば、我が国のAI分野における国際共同論文の割合が21%と主要国の中で最低水準にあるという‐シンガポール(65%)や米国(33%)、更には中国(24%)の水準も下回っているとのこと(同紙「AI研究の論文引用ランキング」や、「内向きの研究現場: 世界に飛び込めば未来」を参照)。かくして世界の研究ネットワークから観れば、日本の研究者は"蚊帳の外"に置かれ孤立状態にある。また研究論文の引用数(2012~2016年)を見ると、研究組織別のトップ100位のうち、米中の組織数はそれぞれ30、15であるのに対し、日本はわずかに1つ(64位の東京大学)であると同紙が伝えている。

 小誌前号で触れたMIT Technology Review誌(AI特集号)は、3月に新設されたトロントの研究所(Vector Institute)やAIの軍事利用に関し詳しい情報を掲載している。翻って日本には全く触れていない!! (日本関連は、裏表紙にある広告(Lexus)のみ。)こうして日本の内外に横たわる情報の格差に、筆者は今もなお戸惑いを感じている。

 情報格差に関し、Silicon Valleyで活躍する弊研究所international research fellowの櫛田健児氏は、日本側のシリコンバレー経済圏に対する理解不足を警告しており、弊所で今月の中旬「幻想と真実の間で揺れ動くAIによるディスラプション‐シリコンバレー経済圏の真の理解と日本の付加価値創造力の未来‐」と題し、講演を行う予定だ。筆者も櫛田氏の知見を基に理解不足を正すつもりだ。確かに日進月歩のAIを理解するのは大変だ‐5月号で触れたMITのブリンジョルフソン教授はAIと低迷する生産性の関係に関し論文を先月発表している("Artificial Intelligence and the Modern Productivity Paradox" 次の2を参照)。また教授は著書(Machine Platform Crowd, June 2017)の中で、カール・メンガー大先生の著書(『国民経済学原理(Grundsatze der Volkswirtschaftslehre)』)の一節を引用しつつ、AIにより経済構造が如何に激変するかを説明している。

 日本人研究者の将来に期待しつつ、この情報格差を海外の友人達に伝えると様々な反応が返って来た。

 友人達からのやさしい言葉‐「日本はcatch-upが得意だから心配しないで」‐に複雑な気持ちになっている。また上記の計量書誌学的(bibliometric)分析は便利で分かり易いが、専門家による質的評価(qualitative expert assessment)という視点からの問題点を指摘された‐即ち①データに含まれない膨大な量の研究の存在、②citation cartel等の引用上の誤用(self-, collusive, and coercive citation)、③革新的な研究自体の性質(革新的な論文は、往々にして権威や多くの研究者から無視される)、④量的に論文を評価する方法論そのもの‐小誌前号で触れたAIの国際会議でも、研究者間の競争が熾烈なために論文の"質"より"量"が偏重され、学会全体から観ると低質な論文乱造で資源が浪費されていることが指摘された。この点に関連して筆者も以前小誌(2015年11月号)で経済分野における"非科学的"論文に疑念を抱く研究を紹介している(Chang and Li, "Is Economics Research Replicable? Sixty Published Papers from Thirteen Journals Say 'Usually Not,'" Federal Reserve Board)。また或る友人は、「一国の経済にとって重要なことは優れた論文を書くことだけでなく、優れた論文の中から"智慧"を抽出して実践すること。そのことを認識し、真摯に学ぼうとする経営者と技術者が以前の日本に多かったのでは?」と語ってくれた。

 小誌10月号でもAI研究の熾烈な国際競争に簡単に触れたが、米国の国防技術革新評議会(Defense Innovation Board (DIB))会長のエリック・シュミット氏(Googleの元CEOでAlphabet社会長)は、米国のAI研究に関し中国を念頭に警告を発した(例えば"Google's Schmidt: US Losing Edge in AI to China," Defense News, Nov. 2を参照)。米国が如何なる形の(AIを含む)dual-use technology戦略を採るのか。これについて興味は尽きない。

 米国の外交・技術政策に詳しいジョージ・ワシントン大学(GWU)のヘンリー・ナウ教授が8月末に発表した小論が興深い("Trump's Conservative Internationalism: It Aims at a Globalism Rooted in Nationalism," National Review)。欧州ではドイツを、アジアでは日本を頼りにする米国だが、欧州に関してNATO首脳会議とG7を終えた直後のメルケル首相によるミュンヘン演説に教授は注目している。ドイツ語が堪能な教授は、首相が巧みな言い回しで微妙に異なる副詞を使い分けつつ行った演説に関し面白い分析を行った。残念なことだが、日本語が不自由な教授に対し、独語同様の厳密な分析を日本に関して望むことは出来ない。それでも筆者は今後の彼の対日分析を、政情が流動的な欧州に対する分析とともに楽しみにしている。



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「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第104号(2017年12月)PDF:325.3 KB

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