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2017.11.01

サイバー防護: ICT左右する最大要素に

電気新聞「グローバルアイ」2017年10月25日掲載

  • 栗原 潤
  • 研究主幹
    栗原 潤
  • [研究分野]
    米国情報・ネットワーク

 世界の動向を知る際に不可欠なメディアのひとつ、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は、印刷版に関しアジア版を今月初旬に、また欧州版を先月末に廃止した。かくして我々は紙ではなく情報通信技術(ICT)を一段と頼りにするようになっている。

 こうした問題意識を抱きつつ先月下旬、英国で開催された人工知能(AI)に関する会議をはじめ、欧州での様々な会合に参加した。その際、エストニアのタリンで開催されたデジタル・サミットについても研究者達と語り合った次第だ。タリン・デジタル・サミットでは2人のキーノート・スピーカーが登壇し、最初の講演者はサイバー・セキュリティーの専門家でフィンランド出身のヤーノ・リムネル氏であった。彼は人々の間に信頼がなければデジタル社会の発展に障害が生じることを強調した。もう一人の講演者はマッキンゼー・グローバル・インスティテュートの代表者、ジェイムズ・マニーカ氏であった。彼は米中両国の技術開発力のおかげでデジタル化が進展し、世界全体としては経済的利益を享受する一方、各国の労働市場に新たな勝者と敗者が生まれることを語った。そして各国政府にとってサイバー空間の安全策と所得格差解消のための社会政策が課題になることを予想した。

 こうしてICTは世界各国に便益と損失、さらには安全性と危険性を「不均一的に」もたらす。このためにAIやロボットなどの技術開発能力と技術の活用能力に関し、各国間で新たな形の競争と協力の関係が出現するのである。

 ICTの発展に関し、吉凶を左右する最大の要因は、前述のサイバー・セキュリティーだ。電子取引やIoT(モノのインターネット)といった経済活動、交通網や公益事業といった公共インフラ、さらには軍事施設を含む政府機関の活動に対する危険性を最小限に止めるためには、この空間の安全が不可欠だ。とはいうものの、現在「安心・安全」には程遠い状態である。

 特に無線LANに関する脆弱性は、筆者自身、ワシントンなどの海外で実際に何度も被害を受けただけに深刻に受け止めており、サイバー空間のさらなる安全強化を願っている。

 見知らぬ街では、位置情報(GPS)を取り込んだスマートフォンの地図を頼りに目的地に向かうことが多い。そうしたなか約2年前のベルリン出張時に、スマートフォンが突然機能を停止した。地図も連絡先の電話番号・メールアドレスも全てが参照できない状況に遭遇したのだ。機器に疎い筆者は真っ青になった。苦労してアップル・ストアにたどり着いたのは良かったが、筆者の稚拙なドイツ語では不可解な機能停止を説明できない。この時、ぼうぜんとしている筆者に奇跡が起こる。近づいて来た店員が、何と日本語で話かけてきたのだ。日本のアニメ・ファンの彼は日本語を少し話せるらしい。そこで筆者のスマートフォンを見せたところ、彼は漢字が読めないから機能回復の操作は無理だと言う。対して筆者は、アップルの製品は何語であれ機能が世界共通で同じ順番に並んでいるはずだと主張した。そして彼にドイツ語版の場合と同様の手順でリセットしてもらいたいと懇願した。彼の努力のお陰で機能が回復しその後の出張に問題は起らなかった。この辛い体験以来、海外での無線LANの利用に関し筆者は極端に慎重になっている。

 サイバー空間の安全性を高めるために世界が協力することは、世界の人々の間で信頼が高まることにもつながる。このためにも各国の関係者に期待を抱いている毎日だ。

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