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2017.06.15

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第98号(2017年6月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

  • 栗原 潤
  • 研究主幹
    栗原 潤
  • [研究分野]
    米国情報・ネットワーク

 先月の欧州出張で最も印象に残ったのは"Innovation and Organizational Culture"に関する会合であった。規模が年々拡大し、"流れ作業"のように映る国際学会とは異なり、その会合は気の合う者だけが集う小人数の学術サロン風で楽しく、また知的刺激に満ちていた。終了後に日本庭園(Kyoto Garden)へ、更には東北の被災者を追悼した"Fukushima Gardens"へと案内してくれた英国の友人達の心遣いも思い出深いものとなっている。 英国の知人がRoyal Societyの標語(Nullius in verba)を引用して、Brexit後も権威主義を排除する精神を持つ英国の研究機関が欧州の先導役を果たすことを主張した。この見解に対して独伊出身の友人達が顔を真っ赤にして反論したが、その様子に思わず筆者は噴き出してしまった。そして筆者は次のように論じた。

 ①国籍・分野に関係なく"洞察力"と"多様性を抱擁する力"を持つ研究リーダーが不可欠だ。②国が持つ独特な文化や大学の校風は参考になるが、それだけでorganizational cultureを論ずる事は難しい。③好例はキャヴェンディッシユ研究所だ。頭脳明晰で温厚な紳士であるアーネスト・ラザフォードが所長であった時でさえも、所内の形式主義や息苦しさは漂っていた。その組織文化を壊したのはロシア人のピョートル・カピッツァ。だから"進取・平等な英国と旧弊なロシア"という単純な図式は描けない。④同研究所を含む海外に7年間滞在し、"洞察力"と"多様性に対する包容力"を体得したのが日本の仁科芳雄先生。先生は湯川秀樹先生の研究をニールス・ボーアが認めなかった時でさえ湯川先生を擁護した。その直後、ヴェルナー・ハイゼンベルクが湯川先生を評価出来なかったボーアの態度に疑問を抱いていたことを、朝永振一郎先生が後年述べている。⑤従ってinnovationは"洞察力"と"多様性に対する包容力"を持つ指導者が、open とclosedのnetworksを巧みに絡ませ、国籍・宗教・性別に関係なく能力の高い人達の努力をまとめて"凝結"させることによって達成される、と。

 英国国際戦略研究所(IISS)が発表する資料(Cyber Report)を読むと「サイバー空間ほど危険なものはない」ということが分かる。小誌3月号で触れた本(The Internet of Risky Things)は、サイバー攻撃を"cyber Pearl Harbor"ではなく、時間的・空間的規模の大きさに注目して"cyber Love Canal"と呼んでいる(Love Canalは米国の大規模環境汚染問題)。こうした危険に関し、キッシンジャー氏は近著(World Order, 2014)の中で、キース・アレクサンダー将軍の発言(The next war will begin in cyberspace.)を引用し、また故トーマス・モーラー米統合参謀本部議長も日本海海戦から現在に至る電子戦を記録した書籍(La Guerra Elettronica, dalla battaglia di Tsushima ai giorni nostri)の序文の中で、将軍と同様の趣旨を述べている。いずれにしろcyber terrorismに警戒心を緩めてはならないのだ。

 Cyber and Electronic Warfareといえば、今年75周年を迎えるミッドウェー海戦を忘れてはならない。ピューリッツァー賞を受賞したスタンフォード大学のディヴィッド・ケネディ名誉教授の著書(Freedom from Fear)を読むと「信じ難い事ではあるが、明らかに日本はこの言語道断の機密保持違反を発見することが出来なかった(Incredibly, the Japanese apparently failed to get wind of either of these egregious security breaches)」とある。教授は、帝国海軍の暗号が解読された事ではなく、暗号解読の成功を米国マスメディアが報道した事態に帝国海軍が気付かなかった事を「信じ難い」と述べている。慌てた米国側は日本側に解読成功を気付かれないよう、軍法会議を開催せず"うやむや"にしてしまったが、大本営の秘密主義と虚偽報道の影響のせいか、小誌2015年9月号で触れた通り、日本の在外公館の誰もこの新聞報道に気付かなかったのだ。「暗号が漏れているぞ」と、ミッドウェー敗戦後に編成された第三艦隊の小沢治三郎司令長官が疑ったものの、軍令部は「機密漏洩はない」と判断してしまった。この誤断に関し日本の専門家である小谷賢氏は、『日本軍のインテリジェンス: なぜ情報が活かされないのか』の中で、「原因を徹底的に検討しなかった」ことを問題視している。

 本年1月に米国エネルギー省(DOE)が発表した報告書(Transforming the Nation's Electricity System (QER))の中でも、2015年末にウクライナで発生したサイバー攻撃による停電に言及しつつ、cyber terrorismを警告している。我が国も2020年の東京五輪を控え、万全を期すことが求められている。



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「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第98号(2017年6月)PDF:338.1 KB

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